──ニューアルバム『PINK』は、街の風景やそこで生活する人々を独特の切り口で描写した歌詞と流麗なサウンドに惹き込まれ、最後まで耳が離せなくなりました。「21世紀シティ・ポップ決定盤」というキャッチコピー通りの完成度の高い作品ですが、今作は、いつ頃から制作をスタートされたのでしょうか?制作にあたって、特にこだわったのは、どのようなところですか?また、12月23日に恵比寿ガーデンホールで行われたライブを拝見し、MCでご自身が追究するシティ・ポップというものに「またひとつ答えが出せたように思う」ということをお話しされていましたが、それはどのようなところでしょうか?
制作は約1年間で、ちょうど2015年終わりくらいから始めて、2016年いっぱいずっとレコーディングをしていたような感じです。“東京”という私が普段暮らす街に合うもの、例えば地下鉄や新幹線に乗る時などに街の景色に合う自分のBGMになるようなものというのをずっと考えていました。
街の速度に合うシティ・ポップとして今回は会心の作だと思っています。
これまでのシティ・ポップについて色々と考えて来たんですけれども、今までで一番新しい挑戦をしているアルバムになっていますし、今現在のこの街の香りを閉じ込める事ができたのではないかと思っています。30、40年後に、今子供だった人が小さい時に見ていた街の景色などをこの曲を聴いて思い出してくれたらいいなって…そういうアルバムになっているのではないかと思います。まさしく“今の音楽”になったんじゃないかなって思います。
──プロデューサーにトオミヨウさんを迎え、デモ制作の段階からお互いにキャッチボールを重ねたそうですが、アルバム制作をご一緒されていかがでしたか?
トオミヨウさんがソロでアルバムを出されており、その作品を聴いて今回私が目指すものを実現してくれるに違いないと思いました。トオミさんの音楽の乾いているんだけれどもどこか人肌のような温かさがあったりとか、孤独感があるんだけれども同時に優しさがあったりていうのが、私の知っている東京、今の東京の雰囲気とすごくリンクしているなと思いまして、そういう温度感を歌詞で表現できればと思い、トオミさんにお願いしました。
トオミさんとのやり取りはすごくスムーズで、共通する感覚が結構あるみたいです。感覚的な言葉でキャッチボールした感じですね。最初はトオミさんがメロディを書いてくれてそこに歌詞を当てる形で3曲くらい制作しまして、そのあと私の歌詞に後からメロディをつけてもらって、また3曲くらい制作しました。メロディと歌詞を自由にお互い好きなようにできました。
トオミさんのメロデイが先にあったものは、その曲の世界感を際立たせる言葉選びをしようと作っていましたが、全部の作業が終わってからトオミさんからLINEが来て「今回は土岐さんの言葉をいかに引き立たせるかという事を考えて作っていました」という、実はお互いに同じことを思っていて、お互いにリスペクトがあった作品になったかなと思いました。
先ほどトオミさんと共通する感覚があると話したのですが、結構抽象的な言葉を使われる方で、例えば曲の中で「ここはもっと地面にゴミが散らかっている感じにしようと思うんですよね」とか(笑)。
私は譜面も読めないですし楽器もできないので元々抽象的な言葉を選ぶタイプですが、そういうところですごく理解がしやすかったです。
「脂肪」という曲ではトオミさんがシンセサイザーに入れてくれた音が“脂肪みたいにブヨブヨするな”って思っていてそれを密かに心の中で“脂肪の音”って勝手に呼んでいたのですが、やりとりしているときに「ちょっと脂肪の音がちっちゃくなったのでも少し大きくしてもらえますか」と言ってから「しまった!」と思ったんですけどトオミさんが「あ、はい」って普通にその音を上げてくれたんですよ。「あ、通じてたんだ」って思いました。だから“地面にゴミが散らかしたような感じにしたい”とか“脂肪の音”とか“焼きそばの麺みたいな音”とかそういう視覚的なワードを共有できましたね。
──歌声と楽器の音色が絶妙にマッチしたサウンドが耳に残りますが、今回のレコーディングはいかがでしたか?
トオミさんのサウンドがほぼ打ち込みのエレクトロなサウンドでして、そこにボーカルが入った時に、声って人肌のもので、人肌のものと機械のものと分離しすぎないように、私もサウンドの一部として、楽器のように溶け込むボーカルを意識しました。
──それでは、収録曲についてお聞きします。タイトルナンバー「PINK」は、くだんの恵比寿ガーデンホールライブで披露され、心地よいリズムに観客から自然と手拍子も湧き起っていました。パーカッション、トランペット、ストリングスを配したゴージャスなアレンジが印象的ですが、どのように制作を進められたのでしょうか?
これは一番最初にできた曲で、トオミさんとアルバムを作るってなった時に、最初に浮かんだインスピレーションを基に作った曲です。先にほぼアレンジも出来ているような状態で、1年間かけてどんどん歌詞に合わせてマイナーチェンジを行いこんな感じになりましたね。最初は大サビがなかったんですけど、この歌詞には、ドラマチックに展開する部分があった方がいいという話をして、より壮大なアレンジになりました。
この曲は、ピンクはピンクでも人肌のピンクでお肉の色ってピンクじゃないですか。そういう血や肌とか“フレッシュ”という意味でのピンクがテーマで赤ちゃんから大人まで誰かの人肌を常に求めながら人間は生きているのかなという。
すごく簡単なことのようでとても難しい“誰かの人肌と一緒に生きるということ”を歌っている曲です。
──3曲目の「Valentine」は、「愛してるって 想いひとつで こんなにも心が輝く」というサビのフレーズがストレートに心に響きますが、いつ頃、どのように曲作りをされたのでしょうか?
この曲はアルバムの中で一番明るい曲になっていると思います。
最初にトオミさんの曲があってそこに私が後から歌詞をつけてました。プライベートでは、この曲のようなトキメキは特になかったんですけど(笑)、まわりの友人ですごく幸せそうな二人がいて、その二人を見てこんな感じなんじゃないかなって想像しながら、自分がそうだった頃(笑)の気持ちを思い出して祝福するような気持ちで書きました。
──収録曲の中で唯一日本語タイトルの「脂肪」は、タイトルのインパクトもさることながら、巧みな比喩で自分の殻に閉じこもり孤独になっていく人を映し出す歌詞が秀逸で二度ビックリしました。どのようなところから発想されたのでしょうか?
実は前回のアルバム『Bittersweet』からあった歌詞なんですけれども、その時は結局曲にはせずに自分のメモの中に戻したのですが、今回のアルバムで女性作家のG.RINAさんに作曲をお願いすることになったので女性ならではの感覚をうまく理解してくれて今回改めて歌詞を提出しました。
自分が何か嫌なことがあるとやけ食いをするタイプなんですけれども(笑)、この“やけ食い”って日常的になっちゃうとあまり良くないなって。自分の向き合うストレスとか問題から目を背けてお菓子を食べたりとかしてもあまり解決にならず、返って嬉しくない脂肪がつきますし、結局自分の問題がどんどん後回しになって、いつの間にか問題が膨らんで…。それがまるで嫌なことを避けてやけ食いしてその結果、脂肪がついて膨れていくのと同じように問題も膨れてて、いつかインディ・ジョーンズのように岩に押し潰されると思っていたことなんです。
今回の中で唯一“私小説的な曲”になったと思います。
──アルバムのラストを飾る「Peppermint Town」は、主人公が気持ちを重ねる変わりゆく街の描写も印象的ですが、具体的にどこかの街をイメージして歌詞を書かれたのでしょうか?
ペパーミントの街というのは私が幼い時に住んでいた渋谷区の街ですね。80年代になると続々と一人暮らし用のアパートができたんです。木造のアパートですごくカラフルに塗ってあって、クリーム色とかピンク色とか中でもペパーミントグリーンっておしゃれだなって当時思っていて、しかも若い人が一人で住むなんて、何てオシャレなんだって思っていました。他にも歩道橋とかあちこちにペパーミントの色が使われていて、私にとっては昔の風景の象徴というのがペパーミントなんです。
今回の「Peppermint Town」の主人公は、また時代がとんで私が大学生の頃のことを思い出して書きました。生まれた時にあったペパーミントのアパートが消えていって、コンクリートの平地にどんどんビルが建って、ゆりかもめが開通して、窓から見える風景も急速に変わっていくんだろうなという、背中を押されるような感じもありつつ、焦るような、ちょうど当時は就職活動の頃だったんですけど、時代に沿って私も変わらなきゃっていう、何か置いてかれるような気持ちにさせられました。
──そして、今作を引っ提げ、4月よりワンマンライブツアー『TOKI ASAKO LIVE TOUR 2017 “POP UP PINK!”』がスタートします。今回のツアーに向けての抱負をお聞かせいただけますか? 併せて、2017年の抱負、目標もお願いできますでしょうか?
今回のツアーはエレクロトの打ち込み中心のサウンドである『PINK』というアルバムをいかに人力でやるかが抱負ですね。
あとはドラム、ベース、ギター、キーボードという私含めて5人だけで『PINK』というアルバムを編み直すという感じでやってみようと思います。
前回の『Bittersweet』が私小説だとしたら今回のアルバムはドキュメントだったり、ルポみたいな作り方をした曲が何曲かあるので今年はそういうことを極めていきたいというか、もっと日常の中でのドラマとか現実を切り取った曲やドキュメンタリータッチの歌詞を書きたいなって思います。
1. City Lights
2. PINK
3. Valentine
4. Fancy Time
5. 脂肪
6. Rain Dancer
7. Blue Moon
8. Fried Noodles
9. SPUR
10. Peppermint Town
〈DVD〉
■ライブ映像「TOKI ASAKO LIVE TOUR 2015 “Bittersweet”~子曰、四十而不惑。麻子曰、惑うなら今だし。~」2015年10月31日(土) 東京・日本橋三井ホールで行われたツアー・ファイナル公演
01.セ・ラ・ヴィ ~女は愛に忙しい~
02.さよなら90’s Girl
03.SU SA MIN
04.ラブソング
05.Don’t let it go
06.きみだった
07.サーファー・ガール
08.Kung Fu Girl
09.Beautiful Day
10.BOYフロム世田谷
11.地下鉄のシンデレラ
■メイキング映像:アルバム『PINK』レコーディング&ジャケット撮影風景を収録
【CD情報】
[CD+DVD]
アルバム
発売:2017.01.25
RZCD-86245/B
rhythm zone
4,500(税抜)
CD購入
[CD]
アルバム
発売:2017.01.25
RZCD-86246
rhythm zone
2,900(税抜)
CD購入
オフィシャルサイトはコチラ!
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TOKI ASAKO LIVE TOUR 2017 “POP UP PINK!”
2017年春、全国8ヶ所にてワンマンライブツアーを開催!!
土岐麻子
■宮城
4月14日(金) 仙台darwin
開場18:00 / 開演19:00
Info: GIP 022-222-9999
■新潟
4月19日(水) 新潟 ジョイア・ミーア
開場18:30 / 開演19:00
Info: キョードー北陸 025-245-5100
■東京
4月22日(土) EX THEATER ROPPONGI
開場16:30 / 開演17:30
Info: ホットスタッフ・プロモーション 03-5720-9999
■広島
4月28日(金) 広島CLUB QUATTRO
開場18:30 / 開演19:00
Info: キャンディー・プロモーション 082-249-8334
■福岡
4月29日(土・祝) Gate’s7
開場17:00 / 開演17:30
Info: キョードー西日本 092-714-0159
■大阪
5月7日(日) 梅田CLUB QUATTRO
開場17:00 / 開演17:30
Info: 清水音泉 06-6357-3666
■愛知
5月8日(月) 名古屋CLUB QUATTRO
開場18:30 / 開演19:00
Info: サンデーフォークプロモーション 052-320-9100
■北海道
5月16日 ( 火) 札幌cube garden
開場18:30/ 開演19:00
Info: ウエス 011-614-9999
【チケット】
■東京公演以外:全自由(整理番号順) 5,800(税込・ドリンク代別)
※未就学児童入場不可
■東京公演:全席指定 6,700(税込・ドリンク代別)
※未就学児童入場不可
一般発売日:2月11日(土・祝)
※最新のライブ情報はオフィシャルサイトをチェック!
http://www.tokiasako.com/
Cymbalsのリードシンガーとして、1997年にインディーズ、1999年にメジャーデビューを果たす。
2004年のバンド解散後、実父 土岐英史氏を共同プロデュースに迎えたジャズ・カヴァー・アルバム『STANDARDS ~土岐麻子ジャズを歌う~』をリリースし、ソロ始動。本人出演/歌唱が話題となったユニクロTV-CMソング「How Beautiful」を始め、NISSAN 「新型TEANA」TV-CMソング「Waltz for Debby」、資生堂「エリクシール シュペリエル」CMソング、「Gift ~あなたはマドンナ~」など、自身のリーダー作品のみならずCM音楽の歌唱や、数多くのアーティスト作品へのゲスト参加、ナレーション、TV、ラジオ番組のナビゲーターを務めるなど、“声のスペシャリスト”。