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ニューアルバム『バビルサの牙』12月17日発売!!

インタビュー

柴田淳

恋愛をモチーフに女性のリアルな感情を歌に乗せる柴田淳は、ライブはいつも完売という実力派シンガーソングライターだ。そんな彼女がニューアルバム『バビルサの牙』をリリースしたとのことで、直撃インタビュー。このアルバム、1曲目からこれまでの柴田ソングとは全く違う趣の楽曲が用意されており、その変化には驚く。しかもインタビューで赤裸々に語ってくれた、アルバムに辿り着くまでの驚きのストーリーとは?読み応えは十分で、読み終わったそこに新しい柴田淳がいます!

夢はジャズ・ライブ

──去年の6月の末に、中野サンプラザでやったライブを拝見しました。

柴田:ありがとうございます。

──柴田さんはブログの歌姫とか、失恋ソングの女王とか、色々な異名をお持ちで、それだけに言葉、つまり歌詞に注目されることが多いと思いますが、去年のライブでは、まずその歌に感動しました。特に最後の「道」の歌い出しはアカペラでしたよね。

柴田:そうですね。

──あれにやられました(笑)。周りの客席でも泣いている人が沢山いて、柴田さんの歌の力を再認識しました。

柴田:そうやって聞いてくださっていると思うと、私も感激です。嬉しいです。

──あとアンコールが面白くて、お客さんからリクエストを受けてアカペラで歌いました。

柴田:私の中では結構場繋ぎの適当な感じで歌っているので、あんなのでいいのかなって(笑)。

──しかも本人が歌詞本持参でした(笑)。

柴田:自分の曲は全部覚えられないので、それ用に歌詞本を用意しているのです。他のアーティストの方の大ヒット曲とか、何十年も歌い継がれている名曲は、さすがに覚えているので、覚えている限りで歌わせてもらっています。というか、他の方の曲は何をリクエストされるか分からないので、歌詞本も用意のしようがない(笑)。

──あの時は「Fly me to the moon」も歌いましたね。

柴田:そうでしたっけ(笑)。

──ワンフレーズだけだったので残念で、フルで聞きたかったです。そして歌い終わった後、ジャズのライブを実現したいとおっしゃった。

柴田:ジャズのライブは私の夢で、その年の暮れにジャズの本場であるBillboard LiveやBLUE NOTEでライブをやらせてもらいました。でもジャズ・ライブではなくて、ご縁があってステージに立てたというだけです。なかなかお願いしても立てる場所じゃないので、まだまだ実力が足りないし、もし立つんだったら、こういう自分になってから立ちたいという夢はあったけど、でもこれもいい機会かなと思って立たせて頂きました。本格的にスタンダード・ナンバーを練習して、いつか本当のジャズ・ライブでBillboard LiveやBLUE NOTEに立ちたいです。でもそれは、最低でも10年位はかかりますけどね。

──そうですか?

柴田:何十年も歌って、染み付いているくらい自分の中で消化できてからでないと。私のような分際で言うのはなんですが、ジャズ・ボーカルって、ノリというかグルーヴで歌うので、よっぽど歌が上手じゃないと厳しいものがある。英語で歌えるようになったので聞いてくださいとか、そういう感じでは歌えないのです。そんな簡単なものではない。そのくらい自分の中でこだわりがあるので、ジャズは夢のジャンルなんです。

──今回のアルバムの制作中の日記ブログでは、ご自身の歌唱力について、あまり自信がないふうのコメントをしていますね。

柴田:自信がないというか、裏声に逃げたりとかして、口先で歌っているような曲が多いので、声が出せない人なんじゃないかとか、色々思われているのではないかなと思い、今回のアルバムでは声を張り上げてる歌があるから驚くのでは?と、そんなことを書きました。でもライブとかで「結構歌える人なんだね」とか、「CD以上です」って言ってくれたりとか、生の歌声では色々な評価を頂いています。それは嬉しいですね。

──歌うことに関して、ライブとCDは、ある種別物ですか?

柴田:CD制作の場合は、伴奏のテンポも決まっていますし、それは何回聴いても変わりません。その法則的な伴奏の中で、ベストの歌を歌うとなると、フォーマットを作るかのように型にはまっていくのです。その曲を崩さずに、まさに基本を完成させなければいけない。ですから色々と自分の中で神経質になりながら、その曲のスタンダードを録音します。一方ライブになると、ちょっと崩したりとか、抑揚に任せて大きく歌ったりとか、のびのびできますね。

──なるほど。ライブのほうが歌いやすい感じですね。

柴田:例えば今回のアルバムの「王妃の微笑み」に関しては、普段は裏声に逃げるような高いところも地声で出しています。自分自身の地声の声量を、わっとだせる音域だったので、きっとエンジニアさんもびっくりしたと思うくらい、すごい声量で吠えました(笑)。自分の声帯のキーというのがあって、それにぴったりな曲でした。もしそこが半音でもズレていたら、裏声に逃げたりとか、こういう感じのボーカル・テイクにはならなかったと思います。そんな感じで自分自身、メロディを作って歌詞を書き、ブースに入って歌を録音するまで、どんな歌い方をしようかは一切考えていなかったりします。

──それは「王妃の微笑み」に限った話ですか?

柴田:この曲だけでなくいつもそうです。例えばデモテープの時は「ラララ…」で通してしまったりしますから、その歌詞をマイクにのせて、ちゃんと作られた伴奏で、歌をのせるのはレコーディングの時が初めてなんです。だからどのくらい吠えられるのかも、ブースに入りマイクを通してみないとわからないことでもある。キーも一応は確かめるのですが、本番にならなきゃわからない部分もあります。なので、この歌詞がこの伴奏にどうのるんだろうと、ワクワクしながら歌うのです。よって1テイク目が一番いいことがよくありますね。そこに全部魂が入っちゃうというか、新鮮さが全部いってしまう。そして2テイク目からは、1テイク目の真似っ子になってしまうんです。記憶が残っている分、1テイク目の良かったところを真似しだすんです。つまり計算が入ってきて、新鮮さがどんどんなくなっていく。ですから少なくとも直前のテイクは一切聴かないで、録るだけ録ってあとで聴く、ということをしています。

──今回のアルバムの楽曲で「王妃の微笑み」と「哀れな女たち」「ピュア」「横顔」には、スキャットが入っています。スキャットはジャズ・ボーカルで良く使われる歌唱法ということで、ある意味自由に歌っていく歌唱法なので、毎テイク違っていくんじゃないですか?

柴田:そうですね。まさしくアドリブです。

──特に「哀れな女たち」のエンディングは長くて、まさにアドリブで歌っています。

柴田:スキャットに関しては、実はそれほど深く意識はしていませんでした。私はジャズを本格的にやったことがないのですが、今お話をお聞きして、私の歌ったやり方がジャズにも通用するんだなぁという感じです。でも考えてみたらジャズのセッションとかは、楽器のアドリブ合戦になりますよね。その場でしか演奏できないもので、あれは本当に凄いなと思います。だからボーカルも、きっとそういう面があるのかもしれませんね。今回のアルバムの場合は、「好きなように入れてください」というアレンジャーさんの了解のもとに、私も思うがままに歌ったというのが真相です。

──でも思うがままに歌う、というのも難しそうですね。

柴田:歌詞がないのでノリで歌うのですが、例えば何回もテイクを重ねるとノリは消えていきますね。1テイクめはノープランで始まるので、途中で迷子になったり、間違えることもある。ですから何回かやって、間違ったり、迷ったり、立ち止まったところはカットして、という具合につぎはぎにする時もあります。逆にそのまま一本で、すっと使う場合もあります。

──スリリングな録音ですね。

柴田:例えば今回の「哀れな女たち」は、フェイド・アウトで曲を終わらせる予定でした。なので、最後の最後の方のスキャットは適当に歌っていたんです。しかし、歌を乗せて音を整理するミックス作業を経たら、もの凄くカッコ良くなってしまい、結局フェイド・アウトしないで最後まで聞かせる事にしたんです。つまり適当に歌っている部分が少し残ってるんですよね(笑)。でも、歌う時にはどこから音量を絞っていくかは分からないので、基本は最後まできっちりと歌っていますよ(笑)。

牙の折れたバビルサ

──これまでの作品を通じて、柴田さんの場合はアルバムタイトルに非常に大きな意味があると思います。しかも今回もタイトル曲がないですね。

柴田:たしか二枚目の『ため息』というアルバムだけ、「ため息」という曲がありますが、それ以外はタイトル曲がないですね。

──そこで今回の『バビルサの牙』ですが、正直に言って、最初はバビルサが実在の動物だとは思いませんでした。

柴田:呪文なのか、言い伝えなのかという感じですよね(笑)。

──そうですね。しかも1曲目の入り方が、不思議な世界に引き込まれる感じなので、ますますそう思っちゃう。でもバビルサは実在の動物で、これは前からご存知だったんですか?

柴田:どうやって知ったかは思い出せないのですが、多分、今年知ったんだと思います(笑)。

──タイトル決定の経緯は?

柴田:アルバムを作ってからタイトルを付けたのではなくて、その前に次のアルバムは『バビルサの牙』にしようと思って、そこから制作が始まりました。

──いつもそうなんですか?

柴田:そうとも限りませんけど、例えば1枚目の『オールトの雲』は今回と同じですね。あと『ゴーストライター』なんかもそうですけど、何かその時に自分の中に引っかかっているワードをアルバムのタイトルにしたいという考えが閃きます。それで『バビルサの牙』ですが、みんなネットで検索してくれていて、検索順位が急上昇していますけど(笑)、検索結果の3番目くらいに「死をみつめる動物」という言葉が出てくる。それで「柴田淳は死を見つめだした」とか言われるように(笑)。でも、全く関係ないんです(笑)。

──別の意味がある?

柴田:バビルサは牙が長いと子孫を繁栄し易いと言われている動物です。ただ、牙が自分に向かって生えてくるので、死の危険が高まるという。実際に博物館には牙が頭蓋骨を貫通している標本もあるそうです。自分が自分の牙に殺されてしまうわけです。ただ、牙が立派であればあるほどモテるので、子孫繁栄できるそうです。逆に牙が折れてしまうと、全然モテなくなるので、子孫は繁栄し辛いらしいのですが、でも牙が自分に刺さらないので長生きできるというのです。

──なるほど、そっちに興味を引かれたわけですね。

柴田:両極端に分かれるところが非常に興味深かったんです。さらに牙を失って、モテることもなく、無駄に気が遠くなるほど長い人生が待っている、その牙の折れたバビルサがちょっと自分と重なるところがあって、タイトルにしたのです。そこから創作が始まっていくんですけど、いつもその時々の私の等身大のありのままを表現するということを目標にしているので、そのバビルサに共感する部分が既に私を象徴しているし、それでどうやって描いていこうかなってアルバム制作が始まったんです。

──今回のアルバムは悲しい曲も多いんですが、そのなかで新しい世界へ踏みだそうとしている感じ、前向きな印象をうけました。

柴田:その通りですね。『COVER 70’s』から約二年間経って、その間にツアーも二本やりました。ソフトで言えば、『COVER 70’s』からオリジナルアルバム、DVD、ライブCDと、合計4タイトルをリリースしました。まさに休みなく二年間突っ走ったという感じです。そしてその間に一気に体が壊れてきて、プライベートでも失恋したりとか、乗り越えなければいけないような出来事が沢山あったんです。でもその二年間は、そういう現実の問題を全て無視して突っ走った。逆にそれをゆっくりと味わったら倒れてしまう、耐えられないから…。だからそれを感じたくなくて、逃げるように自分で仕事を入れていったんです。現実と向き合いたく無かったし、浸りたくなかった。でもそうやって走っても、やっぱり仕事にも終わりが来ます。それで終わった次の日に倒れて、それまでの二年間我慢していたものが全部体に出ちゃった。二年間溜まった疲れもあって、体がボロボロになって、心も空っぽになった。

──かなり深刻な状況ですね。

柴田:それで分かったことは、時間が解決するというのは全然嘘だということです。何か傷を抱えた場合、傷と向き合って自分でどこかにちゃんと着地しないと、いつまでたってもその問題はつきまといます。二年間経ったら忘れて終わっているはずのものが、実は押し寄せてきたんです。それで一気にマイナスに落ちて、でも仕事は待っていてくれないし…。

──まさにどん底ですね。

柴田:思い切って長期に休んでもよかったとは思いますが、でもそんな疲れを100%とるのは1〜2ヶ月の休みじゃ無理なんです。同じ分だけ、つまり2年位休まないと無理です。しかも体を動かすとかリフレッシュをしないと、お家の中で悶々としていても、寝ているだけでは何も解決しない。だから仕事をして動いた方がいいと思ったのです。そうすると、そこから浮上したくなってくるというか、上に上がらなきゃという気持ちにはなる。傷だらけでボロボロになっている自分を、この先もずっとやっていきたいとは誰も思わない。早く治りたい、元に戻りたいと思うんです。しかも私の場合は精神的に参っていたというよりも、よーく考えるとただの失恋だし(笑)、ただの疲れっていう感じで、心が空っぽになった分、もう想う人とか、悩みがない分、爆睡の毎日になって(笑)、気がついたら規則正しい生活になっていた。吹き出物は凄いんですが(笑)、夜10時くらいに寝て、朝7時くらいには起きるという生活をずっとやったんです。傷は簡単に癒えるものではないけど、今は何も望まないし、何も求めていないから、早く傷を癒やしたいという生活でした。

──そんな苦しみの中から、今回の曲たちが生まれてきたんですね。

柴田:「車窓」という曲を書いてみて、殻を破りたがっている自分がいるのかなって、再認識しました。これは先行配信の曲なんですが、その時に前向きな曲というのは「明るくて元気で、笑顔で溌溂としていて、とにかくパワーがある」というイメージを私は持っていました。でも前向きになるということは、後ろがあるということです。その前向きにならざるを得ない何か、負の感情があるから前向きでいたいと考えるのだと思います。となると、その負の何かから脱却しようと頑張る姿というのは、時に微笑ましく映る事もあるかもしれませんが、頑張れば頑張るほど切なく映る事もある。そんな風に感じて作った曲なんです。きっともっと良い書き方があったかもしれませんが、今の私の中ではこれが限界でした。でもその中に、頑張る笑顔の切なさみたいなものは伝わったのではないかと思っています。

──歌詞を書き直したと、日記ブログにありましたね。「いつもの通り、独りよがりと言うか、ほっといて、みたいな、そんな歌詞から何かを羨んでいても悲しいだけ、不幸なだけ。それよりも前向きになった方が絶対に幸せ。相手の幸せを願った方が幸せって思って、前向きに終わった方がいいと思って、書き直したんです」と。つまり今回の作品は悲しいだけじゃないというのがある。例えば「横顔」という曲も、強がっているだけではないですよね。

柴田:そうですね。2番のくだりとか、私もウルウルしちゃうのですが、自分へのエールでもあり、相手へのエールでもあります。

──「愛のかたち」でも、私は変わったというメッセージがあって、例えば「今の私なら あなたを そんなふうに 泣かせはしない」というフレーズがあります。

柴田:自分が変わり始めていることに、自分が気づいているということです。今までだったらすがりつくだけの恋愛の歌だったけど、そういうのはもう書きたくないと思っています。そう思っている時点で、自分は変わったと思うし、ただ変わったからこそ後悔してしまうというのもある。「今の私ならあの時、ああいうふうにはならなかったのにな」って思う。もっと言えば、今の私で、あの場面に戻れたらということです。今になって未熟な自分が壊してしまったことが分かった。「今の私なら壊さないでいられたのに」って(笑)、直訳すればそういう感じですかね。成長のタイミングとか出会いのタイミングとか、精神的な成長の過程のズレで、上手くいくものも上手く行かなくて。結局、皮肉にも失いたくなかった人を失うことで成長できてしまった自分を知ってしまった。そういう切なさもあるのです。

──今回のアルバムには、そういう気持ちが全作品に反映されていたということでしょうか?

柴田:そうですね。自分で書いて自分で歌っていると、時々どういうメッセージを込めているかが分からなかったりする。人から言われて初めて「ホントだ」と思うとかね。例えば「あの人のことを、こういう理由でムカつく」とか友人に相談すると、「それって好きってことよ」って言われて、自分の気持ちに初めて気づくことがある。まさにそれです。「私は、意味はわからないけど、こう思うんだよね」って書いて歌っていると、「今回のって凄く前を向こうとしていますね」って言われたら、そこで自分の気持ちを再発見する、教えてもらう感じなんです。

若さからようやく開放された

──過酷なプラベートを乗り越えて、大きく成長を遂げた柴田さんなので(笑)、次回作も楽しみです。

柴田:自分でもワクワクしています。ちゃんと乗り越えて、大人になったなという感じはします。

──具体的には何を乗り越えましたか?話せる範囲で結構ですけど(笑)。

柴田:今回、プライベートでもそうですが、いろんな傷と向き合っていたレコーディングでした。
今、それを乗り越えてみて、脱皮したというか清々しさがある。私もアラフォーに突入して、若さからも開放されて、自分自身でようやく立てるようになった気がしますね。

──恋愛ソングを沢山書いてきた柴田さんが、初めての失恋というのは驚きです。

柴田:いやいや、失恋ばっかりの人生ですよ!ただ、付き合っているいないを別にして、常に想う人がいる人生でした。誰かに恋をしていないと生きている意味が分からないというような感じ。まさに恋愛依存症だったと、今になって感じています。今までは常に片隅に好きな人を思い浮かべながら生きてきたのですが、今、そういう対象がなくどうやって楽しみを見つけ、何を楽しみに生きていくのか、どうやって自分一人で立てばいいのか、それすら分からない自分を知りました。今までは好きな人の反応が、イコール私の幸せだったんで、言ってみれば相手次第の幸せだったのです。でも、それって不幸ですよね。まずは自分自身で幸せになるっていう方法というか、自分一人で立つということに気づいたんです。

──それは経験として、非常に大きなものですね。

柴田:自分自身だけで幸せになれるというのは凄く幸せです。

──生涯シングル宣言ですか(笑)?

柴田:いや、もちろんパートナーがいて、今の幸せが何倍にもなっていけたらいいです。でも今までの恋愛の仕方や自分の人生の歩み方、つまり相手に幸せを置いてしまうやり方は、凄く不幸です。どん底でデトックスして、疲れと一緒に心の中のものが全部出ていって、今、何かに気付けたというか、生まれ変わった、そんな気分です。

──もう昔には戻りたくない?

柴田:昔の自分には戻りたくない。イヤです。これからは恋愛の仕方も変わってくると思いますよ。一生懸命、自立した女性を演じていた気がします。そうではなくて一人の幸せをまずは見つける、ということに気付けたので、もの凄く強くなったと思います。ですからこれからの曲も絶対に変わってくると思います。

──今回のアルバムにもその予兆を感じていますか?

柴田:今回ちょっと毒を吐いている「哀れな女たち」という曲があるんですが、それが今後の自分のワクワク感を作るヒントになっています。男性には分からないかもしれませんが、これは毒を吐く女に毒を吐いている歌なんです。今までの私の曲は、女性に味方して、一緒に泣いて、頑張ろうというのが多かった。特に恋愛に依存している女性が共感する曲が歌が多かったと思います。でもそうではなくて、喝を入れるような歌を書きたかった(笑)。それも無責任に「明日になればまた変わるよ」的な、そういう偽善的な前向きソングではなくて、自分が責められているような気がするというものではなくてね(笑)。

──そういった心境を具体的にいうと、どんな感じですか?

柴田:本当に、いい女になりたいと思いました。いい女の歌を書きたい。好きな人に求められる人になりたいとかじゃなくて、いい女だなって思われる人になりたいのです。単に失恋や恋愛の歌ではなくて、いい女の歌を書いていきたいのです。私自身が今一番目指したいところでもあります(笑)。

──例えば夕方、駅なかのスープ・ショップなどで、一人でご飯を食べている女性の姿をよく見かけるようになりました。女の子の一人ご飯というのも増えていますね。

柴田:それが私にはカッコよく映るのです。それはカッコイイ女性です。実際に私は、本当に一人が楽しくなってきてしまって(笑)、楽しんでいます。でも女性がシングルでいると、イコール寂しい女とかいう人が多くて、それってセクハラだよって思います(笑)。そしてそういう状況を、悲観的にマイナスにとらえている女性もいると思います。それは凄く損な生き方だと思う。

──新しいメッセージのスタンスを見つけたということですね。

柴田:私は吹っ切れてしまって、一人の喜びや幸せを見出してしまったら、こんなに幸せなことはないと思ってきちゃっています。でもどうしても、男性がいないと困る場面もありますけどね。

──それはどういう時ですか?

柴田:例えば防犯的な話をすると、女性に比べて男性は怖いことが少ないと思います。体力的に男性にはかなわないという部分で考えると、それだけでまず不利ですよね。立場が弱い。女性が一人でいるのは厳しいです。例えば一人暮らしをしていると、火災報知機の点検の人がストーカーになったりとか、ガスの点検の人がお家から出て行ってくれないとか、実際にある話なんです。そういうのは自分が何歳になっても、女性としては怖いのです。その部分は、男性はないでしょ?あと女一人だとなめられたりとか、それも悔しいですし、もっと言うとネジ一つ回せないし(笑)、キャップが開けられないとか、いちいちフタ開け機を買って使っている自分が面倒くさい(爆笑)。そこに男性がいると、一気に解決しますよね。だからパートナーは必要だと必ず思います。

──そういう意味での、力仕事担当的なパートナーの存在はいると便利ですね(笑)。

柴田:ただそれでも、一人は不幸ではないと思います。一般の男性とか、幸せな結婚をしている女性からみれば強がりだとか、痛々しいとか言われちゃうかもしれなくて、それも悔しい。そんな想いをぶつけたのが「哀れな女たち」なんです。パートナーを見つけても、実は色々な問題を抱えていて、でもなにもないようなふりをして、私は幸せ、私は勝ち組と、負け組を作ってホッとする。そんな女心を突いてみたんです(笑)。

──それは昔の自分への決別でもあるんですね。

柴田:これからは、女ならではのそういう微妙な、勝手に考えてしまう女性の素朴で切実な思いも、恋愛を超えて書いていきたいです。まず女性としての歌を書いて、そのオプションとしてあとから恋愛の歌だと分かるようにしたい。一番に恋愛がくるのではなく、まずは自分自身がくるような書き方を目指したいです。

──今回のアルバムは柴田さんのターニングポイントですね。

柴田:今までは「この曲はこう」「この曲はこう」と言えるように、いかに自分の内面をさらけ出すかという制作だったのですが、今回は心の状態も従来の様な状態ではなかったので、創作自体がいつもと違いました。作家に徹して物語を作ったり、いつものような拘りが無かったからこそ挑戦した事のなかったサウンドにもすんなりとけ込める事が出来たり、結果的に面白い作品になりました。拘りの強い私ですから、こんなに柔軟に多方面に弾ける事が出来たアルバムは、もう二度と作れない様な気がします。

──日記ブログを読むと、特にレコーディングは大変だったようですね。

柴田:どこに行ったらいいのか、どうすればいいのかわからない状態だったからこそ、プロデューサー的に参加してくれる人が必要だったのに、それすらわからない自分で全てやらなきゃ行けなかったため、裏目に出てしまったことは、実は沢山ありました。それが大変でした。音の加工作業も全部一人でやらなければいけなくて、今までその辺をサポートするようにアドバイスして下さる方が居たから成り立っていたということが分かりました。何もかもわからない私に「どっちに行きますか」と聞かれる大変さ。最後はオーバーフローして、泣いてしまうという感じでした。ですからいい演奏を私が最後の最後で悪い音にしてしまったのではないかという不安が残ったレコーディングでした。でも、今までのアルバムに比べて音が悪いとか、コアな柴田淳が入っていないとか、赤裸々感がないとか、そう思うとしたら、「それこそが今回の作品、メッセージです」と言いたい。この1枚を通じて感じる何かが、今回のメッセージです。

──確かに今までの柴田ソングには、「王妃の微笑み」のような物語風の歌詞はなかった。

柴田:それをいれたこともメッセージです。内面をほじるのは凄く精神力が必要なんですけど、それができないくらい空っぽでした。コアな自分に潜って発信する今までのやり方ではなくて、リスナーと私の間にもう一人の私が立って、その私が柴田淳を見ながら、ちょっと客観的な書き方をしたアルバムになっています。だからこそ割りきって、物語風の歌詞が生まれた気がします。「反面教師」という曲にしてみても、これは反抗の歌ですが、今までだったらムカつくっていう言葉を、全部を通してその感情が聴こえてくればいいなっていう、遠回しに憎たらしいっていうメッセージにする書き方でしたが、今回は超ストレートに。同じように「哀れな女たち」も、女性に毒を吐いたことは今までありませんでした。でも今回はそこに毒があったからそれを書いたという感じなんです。
何も考えることが出来ないということは、実に危険だと感じるほど、飾る事も隠す事もせず、ただありのまま、本当にそのままの私が形になりました。この今の私の心模様が分かる一枚になっています。


ジャケット写真は、初回限定盤です。
『バビルサの牙』

01. 王妃の微笑み
02. 反面教師

03. 白い鎖
04. 牙が折れても 〜 instrumental 〜
05. 車窓
06. 哀れな女たち
07. ピュア
08. 愛のかたち
09. 横顔
10. 記憶


アルバム
発売:2014.12.17
Victor Records
VICL-78001
¥3,600(税抜)


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LIVE INFORMATION


みなとみらいKINGDOM Winter 2014「Winter Wonder LIVE」
公式サイト
※FMヨコハマ公開イベント
日程:2014年12月20日(土)13:00〜15:00
場所:クイーンズスクエア横浜1F クイーンズサークル
出演:柴田淳/藤澤ノリマサ/清塚信也/久和田佳代
MC:光邦
※出演時間未定


■「涙活×柴田淳」2014年泣き納め
日時:2014年12月22日(月)20:00〜21:30予定
場所:新横浜 HANZOYA
※抽選で40名様をご招待!
ご応募は下記・涙活オフィシャルサイトへ。(12/19応募〆切)
http://www.ruikatsu.com/

-インタビュー

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