「オレたちみたいな偏屈なバンドが横浜アリーナに立って、こんなにたくさんの人がアニバーサリーを祝ってくれるなんて...、“不思議”だ」。山中さわおはMCでそう表現した。10月17日(木)・横浜アリーナ。「the pillows 30 th Anniversary Thank you,my highlight Vol.05 LOSTMAN GO TO YOKOHAMA ARENA」は、まさにthe pillowsとBUSTERS(=the pillowsファンの名称)が積み上げた“DAYDREAM WONDER”だった。
客電が落ち、前方の大型LEDモニターに少年の写真が現れる。「律儀な赤ん坊だったの...」。女性の肉声が重なる。面影からthe pillowsメンバーであることがわかり笑いが溢れた。そう、佐藤シンイチロウ(ds)、真鍋吉明(g)、山中さわお(vo,g)の順で、幼い頃からバンドを始め、デビューし、30周年を迎える変遷が母親の視線から語られる演出。異口同音で一様に「ファンに恵まれてのこと」と30年続いた理由が語られ、のっけからBUSTERSの涙腺が決壊する。“聴こえてくるのは~キミの声~”、アカペラで山中のボーカルが鳴り響き、「この世の果てまで」で祝宴の幕は上がった。
「オレたち30年間ロックバンドを続けてきたんだ。今夜はその集大成を、俺たちの音楽を受け取ってくれよ」。まさに山中のMC通り、the pillowsが30年に渡って自分たちのやり方を貫いて辿り着いたバンドの魅力が一望できる究極のセットリスト。歌詞に背中を押され支えてくれた曲、隣で寄り添ってくれた曲、軽快なロックンロール、究極のオルタナティブ、切々としたバラードと、初期から近年のナンバーまで絶妙な構成。他にも聴きたい曲があったBUSTERSはいただろう。それでもワンステージ、2時間30分でthe pillowsを堪能するにベストな集大成だ。
「みんな無職(笑)? オレの言いつけを守って仕事辞めてきた?」と、山中ならではの言い回しで、平日の横浜アリーナが、スタンディング、指定席が完売し、急遽立見席を開放するほど集客されたことに感謝を届ける。20周年のベスト盤で唯一の新曲「1989」での“必要とされたい”という叫びが10年後にこれほど多くの人に必要とされているさまや、「じゃあ10年ぶりに歌うよ」と前置きされた「雨上がりに見た幻」には泣けた。冒頭で山中の母がこの曲を「いいな」と語ったことがフラッシュバックする。
アンコールで「ストレンジ カメレオン」、「ハイブリッド レインボウ」と、バンド史において重要曲を連発。リーダーが脱退し3人でバンドを続けると決め、廻りの声に惑わされずバンドの意志を表明した2曲だ。30周年記念映画「王様になれ」でもキーワードとなった“昨日まで選ばれなかった僕らでも明日を持ってる”が1万人超えのBUSTERSにリアルに届けられる瞬間に鳥肌が立つ。
「オレは音楽業界を信用してない。だけどキミたちのことは信じたいよ」。山中からの究極のメッセージに、BUSTERSの心の中には「こちらこそ」が浮かんだに違いない。
「最後に、若者だった自分を救ってくれたもの、そして50代になったバンドを今でも救ってくれるもの。それは普遍的なものだ。ずっと変わらない哲学。新しいも古いもない世界。それは“ロックンロールだ!!!”」山中の渾身のシャウトから「Locomotion,more! more!」で、この至福の夜は幕を閉じた。
このバンドと出会えてホントに良かった。音楽を超えて、生き方を教えてくれた。30周年を一緒に祝えたこの日を僕は一生忘れない。“DON’T FORGET TODAY!”。もちろん忘れられる訳がない。
取材/文:浅野保志(ぴあ)
写真:橋本塁(SOUND SHOOTER)/ 玉井信吾
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