ichiroは、日本を代表するブルース・ギタリストのひとりであるのみならず、矢沢永吉、夏木マリ、長渕剛のバックを務めていることでも知られている。
しかもバンドのまとめ役として、その三者から絶大な信頼を得ている存在だ。
同時にソロ・アーティストとしても活躍しており、数多くの作品を生み出し、精力的なライブ活動を続けている。
そのichiroの5年ぶりとなるミニアルバム『Lonestar』が、2018年11月11日にリリースされた。
彼は常に、熱い魂を音に乗せて我々の魂へと届けてくれるが(まさに彼が憧れるスティーヴィー・レイ・ヴォーンのアルバム・タイトルにもある“Soul To Soul”だ)、本作にはこれまで以上に熱い思いが込められているように思える。
そんな本作について、ichiroに語ってもらった。
(インタビュー・文●細川真平)
自分の答えを出して親父に届けたかった
――今作は『Life Time』以来5年ぶりですが、これを作ろうと思ったきっかけは何だったんでしょうか? 昨年、お父様が亡くなられていますが、作品の内容からしても、それと関係があるような気がするんですが…。
ichiro:基本的にはそこなんですよね。親父は、去年(2017年)の11月12日に亡くなりました。今年(2018年)の3月に、地元の青森で大きなライブをやろうと親父と一緒に計画していたんですよ。その途中で、親父は亡くなってしまいました。この年になって、これだけキャリアを積んだんだから、地元の人たちに、いま自分ができることを観てもらう機会を、俺のことを応援してくれていた親父と一緒に作ろうと思っていたんです。親父の遺志を継いだ地元の人たちのおかげで、今年の3月にそのライブは実現しました。
――そうだったんですね…。
ichiro:親父が亡くなったときには何がなんだか分からなくて、その後も、悲しいんだけど実感がないという状態が数ヶ月あって…でもちょっと経つと淋しさがドカッとやってくる、みたいな状況でした。そんな中で長渕さんとメールでやり取りしているときに、「ichiroは自分で曲が書けて、歌詞が書けて、演奏して、表現ができるんだから、次に作る曲はお父さんの曲じゃないとダメだな」みたいなことを言われて。自分の中でもそう思い始めていた時期だったので、それでスイッチが入って作ったのが4曲目の「I Was Born」なんです。この曲を世に出すことで、親父の死に対する区切りをつけることができたら、それは俺にとってひとつの大きな力になるなと思って。それを1年以内にやりたかったんです。1年以内に自分の答えを出して、それを親父に届けたいという思いがありました。だから、このミニアルバムの発売日は11月11日なんです。
――『Lonestar』というタイトルも象徴的ですね。ichiro さんが大好きなブルース・ロックのメッカでもあるテキサス州の別名が“ローンスター・ステート”ですし、日本語にすれば“孤独な星”となりますし…。
ichiro:俺はテキサス州へ行く機会が多いんですけど、行くとこの言葉をあちこちで見るし、この言葉の響き自体もすごく好きなんです。親父が亡くなってから、ボーッと星空を眺めているときに、いっぱい星がある中で1個だけ常に目が行く星があって。その星を見ては、親父のことを思い出したりしてたんです。ある日、その星を見ながら、もっと頑張んなきゃいけないなとか、いろんなことを思ったことがあったんですけど、そのときに“ローンスター”という言葉が自然とシンクロしたんですよね。それから、この言葉を頭に置いて曲作りをしていきました。
ブルース・ロックを若い世代に伝えていきたい
――『Lonestar』というタイトルには、テキサス・ブルース・ロックの匂いもありますよね。
ichiro:そこはやっぱり、自分のスタイルの原点ですからね。俺にとってはブルース・ロック=テキサス・ブルース・ロックだし、テキサス・トーン、テキサス・サウンドっていうのが全部イコールでつながっている。そういうのを、若い世代や、そういうことをまだ知らない人たちに、ちょっとでも知ってもらえればいいな、そのきっかけになればいいなと思っています。
――ichiro さんは、ブルース・ロックをそのまんまの形ではなく、自分流の解釈を加えて、分かりやすくして、多くの人に伝えようとしていますよね。今回もそういう意図がとても感じられました。
ichiro:ブルース・ロックが好きだから、もろにブルース・ロックをやるという人もいるけど、俺はブルース・ロックが好きで好きでしょうがないから、逆にその魅力を伝えるために、日本の中で、しかも若い世代に伝わりやすいように、自分なりにアレンジしてやっています。それは、本当のブルース・ロックを経験した人間だからこそ作れるものですしね。1991年にデビューしたときには俺もゴリゴリのブルース・ロック・スタイルでしたけど(笑)、2011年のアルバム『Circle Scale』からはそういうスタンスですね。だからこの『Lonestar』も、そういう部分は同じです。
――でも今作では、よりスタイルの幅が広がった気がしました。
ichiro:年齢も関係あるかもしれないですね。俺はいま51歳ですけど、年を取れば取るほど逆行して、枯れた感が出ないようにしようというモチベーションを持っています。でもそれとは別で、年を取った人じゃないと出せないクールさも意識するんですよね。スタイルの幅が広がったというのは、そのバランスを俺の中で取った結果かもしれないですね。
収録楽曲紹介
――それでは収録曲をひとつずつ紹介してください。まずは1曲目の「Chain Of Blues」。これは勢いのあるアッパーな曲ですね。
ichiro:俺は、車に楽器を積んでひとりで全国各地へ行って、地元の人たちとライブをやる活動を、ここ4年ぐらいやっているんですよ。ゲストで出るとかじゃなくて、2時間ぐらいの本気のライブを、地元の人と一緒にやるんです。もう100本以上やってるんじゃないかな。その活動を“Chain Of Blues”と呼んでいるんです。ブルース、音楽でつながる輪がどんどん広がっていったらいいなという願いを込めて。それで、そのテーマソングが欲しいと思って作ったのがこの曲です。すでに各地 の“Chain Of Blues”で何回も演奏していますよ。そういう意味で大事な曲だし、みんなで好き勝手に変えてやってくれたらいいなと思う曲でもありますね。
――次の「Home」は珠玉のバラードで、聴いていて涙が出そうになりました。
ichiro:高校を卒業して、親の反対を押し切って家出同然で東京に出て来て、人に騙されたり、挫折したり、悔しいこともいっぱいあったけど…でも人との出会いや、つながりの中で、たまたま23歳でデビューできて、いろんなステージを経験させてもらって、そういうところから俺のミュージシャン人生は始まりました。そして、今は東京に家があって、でも岡山に住んでいて(ichiroは2011年から岡山を拠点としている)、青森に実家があってという自分の人生を、あるとき遠くから俯瞰してみたんです。育った青森、戦ってきた東京、いま住んでいる岡山、どこにも思いが強いし、大事な3ヶ所というか…どこに行っても、住むところ然りだし、立つステージ然りですけど、自分が生きる場所、それがHomeだと思います。つまり、今そこで生きようとするところが全てHome だというテーマが、この曲にはあります。これもやっぱり、親父が亡くなってから湧いてきた考え方ですね。サビの“Home~”というところが最初に出てきて、そこから広げていったんですけど、ちょっと50年代っぽいテイストも入れたいなと思って作りましたね。
――タイトル・ナンバーの「Lonestar」はインストですけど、この曲調はなんて言えばいいんでしょか? 60年代のギター・インストみたいでもあるし、ロックンロールっぽくもあるし、でも歌謡曲っぽくて(笑)。
ichiro:俺も分かんない(笑)。ただ、バスドラのパターンを変えると歌謡曲からロックンロールになることを発見をしたので、歌謡曲から離れるようにデモ段階で延々とやったんですけどね。とは言え、メロディーがメロディーだから、どうしても歌謡曲臭さは消え切らなかったというか(笑)。曲が最初に湧いてきたときはもっとジャジーだったんですけどね。でも試しにアッパーにしてみようと思って、3パターン作ってみたんですよ。最終的に、その中で一番速いやつにしました(笑)。ギター・ソロは、ベンチャーズよりもディック・デイルというか、ワイルド感のあるものを目指しましたね。親父はマラソンをずっとやってて、いつも走っていた人なんですよ。走るのが好きで、人生もノンストップで。だから自分で後で聴いて、笑って親父のことを思い出せる曲にしておきたかったんですよね。
――そして最後が、先ほども話に出た「I Was Born」。これはこ間違いなくのアルバムを象徴する1曲ですね。
ichiro:そうですね、歌詞がもろ直球で、言いたいことの羅列にはなっているんですけど、こうして吐き出しておけば、次に行けるかなという気がして。次に行くために吐き出した1曲、かもしれないですね。作ったというよりは、吐き出しました。このアルバムはまずこの曲があって、これのほかにどういう曲があれば『Lonestar』というミニアルバムが成立するかを考えていきました。“Lonestar”というキーワードと、この「I Was Born」があって、そこから全体をイメージしていったという感じですね。
――この曲は、ライブだと最後のギター・ソロがもっと長くなって、アルバム・ヴァージョン以上にスケールの大きなものになりそうですね。
ichiro:まあ、なるね(笑)。
――このミニアルバムを、一言でまとめるとどうなりますか?
ichiro:俺はブルース・ロックというもの、もっと言うとブルースを伝えていく役割のひとりでありたいといつも思っています。ブルースがなかったらこの世にロックもないし。ブルースというのは何か?っていうのを、堅苦しくじゃなく、好き勝手に解釈して伝えたいし、ブルースっぽいものがかっこいいと感じてくれる人がひとりでも多くいればいいなっていう思い、願い、それが根本ですし、全てです。それをこのアルバムにも詰め込みました。
真面目に練習し過ぎるとヘタクソになる
――ichiro さんは原宿のホコ天で演奏していて、いろんな人に認められてデビューしましたが、今は音楽を世に発信していこうとしたら、ネットを中心にしていろんなツールがありますよね。そんな 今の時代の若いミュージシャンたちにアドバイスをお願いします。
ichiro:流行りには廃りがあると思うんですよ。今は情報が多い分、その流れが速いし。だからこそ、もっと頭を使う必要があるかもしれない。音楽を作ることは感覚的なものだし、熱意みたいなものが一番大事だけど、それを世に中に発信していくためには、情報やツールがいっぱいあって、いろんなことをショートカットしてしまえる時代だからこそ、よりクレバーになる必要があると思います。これからは感情やフィーリングを曲に込めるというような、人間にしかできないことがもっともっと大事になっていくと思いますけど、だからこそまずそれがあって、その上で現代のツールをどう上手く使いこなすかが大事じゃないかな。
――特にギタリストに対してアドバイスするとしたらいかがでしょうか?
ichiro:俺は上手く演奏したいとも思わないし、上手くなりたいとも思っていないんですよ。だからと言って、楽しければいいとも思わない。自分にしかできないことはなんだろうなというのを常に探し ているんですよね。だから、せっかくギターをやるんだったら、自分にしかない、自分にしかできない、自分にしか出せない、そういうフレーズ、サウンド、ニュアンスは何かというのを考えてほしいですね。自分らしさを好き勝手に出す、これが俺のテーマでもあるんです。だから俺はよく、「真面目に練習し過ぎるとヘタクソになるよ」って言うんです(笑)。もちろんこれはあえてヒネった言い方で すけど、分かる人には分かってもらえると思うし、そうだと思うんですよね。
<リリース情報>
ichiro New Album「Lonestar」2018.11.11 On Sale & 配信開始
品番:CPMR-270725
価格:¥2000(税込)
収録内容:
1. Chain Of Blues
2. Home
3. Lonestar(Instrumental)
4. I Was Born
<ツアー情報>
ichiro Tour 2018 “Lonestar”
11/14(水) 長野 LIVE HOUSE J
11/16(金) 金沢 Jealous Guy
11/18(日) 福井 Tabby’s Guitar & Music
11/19(月) 浜松 Biscuit Time
11/21(水) 大阪 MOERADO
11/22(木) 高松 Studio Nashville
11/23(金) 松山 YAHMAN 33
11/24(土) 岡山 MO:GLA
11/26(月) 広島 Second Crutch
11/27(火) 米子 AZTiC laughs
11/29(木) 福岡 music bar S.O.Ra. Fukuoka
11/30(金) 大口 Bogie
12/1(土) 日田 天領日田洋酒博物館
12/2(日) 小野田 Wakayama
12/4(火) 名古屋 A sign bar KOZA
12/6(木) ひたちなか Stormy Monday
12/7(金) 福島 伊達市 MDD ホール
12/8(土) 秋田 STEPS BAR
12/9(日) 弘前 Eat & Talk
12/11(火) 仙台 LIVE HOUSE enn 2nd
12/12(水) 東京 三軒茶屋 Grapefruit Moon w/ 西 慎嗣
<プロフィール>
ギターを自身の身体の一部とし、言葉以上にギターで表現している。
「ギターの音=声」だというichiro の魅力は、その声・音を体感できるライブ・ステージにある。
タイトでスピード感溢れるStevie Ray Vaughan、Johnny Winter から影響を受け、単身でシカゴへ渡り、セッション・ライブを展開。
その後、アメリカ・テキサスへ何度も訪れ、テキサス・ブルースのサウンド、トーンを探求し、自分の魂を表現し続けている。
1991 年 立川直樹プロデュースの元ソロデビュー。
“Let’s Work Together”、アルバム”My Soul” をリリースする。
以降、「The Sons」、「Rockamenco」のバンド活動を経て、現在はソロ活動を中心としている。
国内外のアーティストと交流を深め、多数のセッションやレコーディングに参加。
長渕剛、矢沢永吉、夏木マリのツアー・サポートを務めるなど、スタイリッシュで独自の美意識を持つ多面性は、音楽業界から高い評価を受けている。
近年は、ブルース・ロック・スピリットを次世代へと繋ぐための活動も積極的に行っており、ギター・クリニックや全国各地のブルース・ロック仲間との“Chain Of Blues” を実施。
2015 年 慶應義塾大学院メディアデザイン研究科において、研究授業特別講師を務める。
また、ギター教則DVD を3 枚監修し、多くのギタリストへ衝撃と影響を与え続けている。
【ichiro オフィシャルWEBサイト】http://www.ichiro-net.com/
【音楽配信代行サービスBIG UP!】https://big-up.style/