毎年3月の頭に台湾の高雄で行なわれるMEGA PORT FESTIVAL(大港開唱)は、今年で4年目を迎える。台湾で人気のあるアーティストはもちろん、ジャンルレスなアーティストがセレクトされていることもあり、毎年このフェスが行なわれるのを楽しみにしているオーディエンスも多い。
MEGA PORT FESTIVALが行なわれるのは高雄。高雄は台北から新幹線で2時間ほどの街で、台北を東京に例えると、高雄は 大阪のような位置にある街だ。主催者側の話だと、高雄は台北に比べると人口も少なく、台北ほど音楽活動が盛んではないため、高雄を盛り上げていこうというのが、このフェスの始まりだったらしい。
台湾では日本の音楽がとても多くの人から支持されているとあり、このフェスも第1回目から日本のアーティストは絶対必須で考えていたという。このフェスに初めて参加した日本のアーティストは、ゆらゆら帝国とenvy、2回目がPlastic Treeとte’、3回目がムックとディズパーズレイとダウト。そして今回は、ムック、jealkb、黒猫チェルシー、Fursの4組だ。
つまりムックがこのフェスに参加するのは2回目。今回は主催者側から、フェスをより盛り上げるために【ムック×jealkb】という括りで出演してもらえないか? との提案があり、日本でも交流の深い“楽しいこと好き”の両者(ムックと jealkb)もその案に賛同したという。日本ではこれまで同じイベン トに参加してムックがjealkbの楽曲をカヴァーしたり、jealkb×逹瑯というセッションでステージに立ったこと はあったが、【ムック×jealkb】というコラボレイト感の強い括りでステージに立つのは初とあり、どんなライヴを見せてくれるのかとても楽しみだった。
会場には3つのステージが組まれており、参加した合計 43組のアーティストたちが時間差でライヴを行う中、オーディエンスは会場内を自由に行き来出来るというスタイルであった。
【ムック×jealkb】のライヴがスタートしたのは18時。
まずはjealkbのワンマンステージからである。ディープな印象のSEから幕を開けた彼らのライヴは、その印象のままヘヴィな選曲で 一気に盛り上げていくかのように思われたが、そこから彼らは鮮やかな印象の「WILL」に繋げ、一気に鮮やかな世界へとオーディエンスを導いたのだった。歌メロのキャッチーさと間奏でのノリやすい煽りに、オーディエンスは早くも彼らの虜だ。聞かされて いたセットリストとは違った流れに驚いたのだが、“イベントで は、その場に集まったオーディエンスの様子を見てセットリストを組むことにしている”というポリシーの彼らゆえ、どうやらこの日もフロアの様子を見て、直前でセットリストを変えたようである。
「jealkbです! 久しぶりの台湾なので、日本語で話していいですか(笑)? 僕たちは、ジャパニーズ・メイク・バンドで す! えっと、ムーブムーブ! コイツ(hidekiを指さし)のムーブを真似て! OK?」(haderu)
日本語と英語とジェスチャーというhaderuオリジナルなコミュニケーションで、オーディエンスとの距離をより近づけると、「嘆きのエンドレス」を届けた。
彼らが台湾に来るのは4年ぶりとあって、今回初めて彼らのライヴを見るというオーディエンスも多かったのだが、この曲も、やはり激しくもしっかりと立った歌メロが即座に耳に残るらしく、1コーラス目はそのメロに体を預け受けとめようと耳を傾けるも、2コーラス目には早くも一緒に歌って叫んでいるのである。3曲 目には、ムックと初共演したライヴで、ムックがムック流のアレンジを加えてカヴァーしたことにより、ライヴでのアレンジをそのときの“ムックヴァージョン”に変えてやっているという「killss」を届け、そのバンド力を見せつけた。
2回目のMCでは、haderuとhidekiがライヴ直前に考えた北京語でのコントを挟み込んだのだが、これが予想以上の大ウケ! さすがである。ヘヴィなバンドサウンドでありながら、口ずさめるキャッチーさを武器とする楽曲と、さすがと感じる絶妙なトークの面白さを持ち合わせているのは彼ら以外に見当たらない。
そして、ラストの曲「恋心」でムックの逹瑯をステージに呼び込んで一緒にこの曲を届けたのだった。この曲は、逹瑯が彼らのために楽曲と歌詞を提供したモノであるが、レコーディングもヴォーカルは別録りだったこともあり、こうして声を重ねるのは初であったのだ。
逹瑯がステージに現れるとオーディエンスは大きな歓声を上げた。さすがの存在感である。逹瑯らしさが溢れるこの曲は、確実にそれまでのjealkbのステージとは違う色を放っていた。この日、【ムック×jealkb】としてここで歌われることを予期していたかのような1曲に、オーディエンスは最高の盛り上がりを見せていた。
この曲からステージはムックのライヴへと繋げられた。
「Thank you! jealkb ! Come on! ムック!」(逹瑯)
ステージに現れたムックメンバーと固いハグを交わすjealkbのメンバー。jealkbのメンバーは、haderuとhidekiをステージに残すとステージを降りた。
1曲目は「ファズ」。逹瑯とhaderuのダブルハープ(ハーモニカ)がイントロに厚みを与え、よりエモーショナルにその場を染め上げた。
オーディエンスは目の前で起こったムックとjealkbの共演に更なる熱い声援を贈った。海外ならではの景色。これぞフェスの醍醐味だと嬉しくなった。そんな中で、海外ライヴでの経験が活かされた逹瑯のMCは素晴しく光っていた。
haderuとhidekiをステージから送り出すと、一瞬の暗転の中、逹瑯はさらりと色鮮やかな振り袖を纏った。その姿にフロアからはため息のような声が漏れた。
ここからはムック単独のライヴだ―――。
届けられたのは「フォーリングダウン」。すっかり暗くなった空と照明の光のバランスがとても美しく、その場を“フェス”から“ダンスフロア”に塗り替えた。
間髪入れずにフロアに送り込まれた次なる曲は「ケミカルパレードブルーデイ」。ここ最近のライヴの中で、最高の「ケミカルパレードブルーデイ」であった。ミヤによると、自身に返っていたギターの音が聞き辛かったようだが、いやいや、この日のこの曲のギターは、いつもよりも鋭く楽曲を盛り上げていたように思ったほど、海外という空気の中でしか聴くことの出来ない、この日ならではのサウンドを
楽しませてくれていたように感じた。
そして、4曲目には、想像していなかった「謡声」が届けられたのだ。手放しで曲を全身で受けとめていたオーディエンスがとても愛しかった。
「喋るよ〜!」(逹瑯)
直前まで、現地の通訳さんにも発音がいいと褒められ、暗記していた北京語でのMCだったが、やはり自分自身発音のニュアンスがいまいち掴みきれていない不安もあったことから、ナント、敢えて堂々とカンニングペーパーを読むというスタイルでのMCに。そのカッコ付け過ぎていないありのままの姿の逹瑯に会場からは笑いと大きな拍手が起こった。
そして逹瑯は、4月に台湾と香港でワンマンライヴが決定したことを報告したのだった。泣き叫ばんばかりの大歓声に、現地でのムック人気を改めて知らされたのだった。
そんな告知の後は「欄鋳」で、お馴染みのカウント4で大きくジャンプするというお決まりの儀式でしっかりと1つになり、ラストを「リブラ」で締めくくった。明と暗、光と闇がこれ以上にないバランスで混在する「リブラ」。彼らはこの曲でしっかりとムックというバンドの存在感を見せつけた。日本でも怖くなるほどの感情移入を見せつけるこの曲だが、この日はメンバー全員の魂を直に感じられたほど熱く濃い時間であった。
ムックがステージを降りた後も、フロアではしばらくムックコールが止まなかった。アンコールが起こっていたのはムックのみ。素晴しい存在感。
彼らはこの日、1時間10分という短い時間の中で、大きなモノを残した気がした――――。
彼らが4月に再び台湾で、どんな景色を生み出してくれるのか、とても楽しみである。