12月23日、東京・文京シビックセンター。今月4日に滋賀から始まった夏川りみの全国ツアー《歌さがしの旅2010−2011 アコースティック編〜太陽・月・風〜》も、この東京公演でいよいよ中盤へとさしかかる。
8月に第一子を出産後、あっという間の仕事復帰。ファンにしてみれば嬉しい気持と同時に、初めての育児と多忙な音楽活動を両立させる大変さを心配する思いもあったはず。けれど、久しぶりにステージに立つ夏川りみの姿を見た瞬間に思い出した。彼女にとって《歌》とは、人生のエンジンみたいなものなのだ。生きてゆくことが歌になり、それを歌声に乗せて届けずにはいられない。結婚、そして出産という人生の節目を迎え、自分自身の中に生まれた変化。それを彼女はいち早く、今までにない新しい《歌》にして我々のもとへと届けてくれた。
エレガントなロングドレス姿、三線を抱えてステージに登場したりみを、満員の観客が「おかえりなさい」のあたたかな拍手でつつみこんだ。母となった彼女の歌声は、想像していたよりずっと美しく、パワフルだった。今回のツアーは醍醐弘美(ピアノ)、姜小青(中国琴)の二人を迎えた、ユニークなトリオ編成によるアコースティック・セット。りみの弾く三線が加わっても、たった3人の演奏だ。それなのに、彼女たちが見せてくれる世界はとても豊かで、色鮮やか。日本的な情緒をかもしだしたかと思えば、無国籍なワールド・ミュージック的な響きを奏でてみたり、中国琴を西洋的に響かせることで映画音楽のようなスケール感を演出してみたり……。
来年リリースされるニュー・アルバムに収録されるナンバーもたっぷりまじえて、子守歌や唱歌、日本やアジアのスタンダード・ポップスなど、アコースティックならではの《歌さがし》の世界。これまでも「お母さんみたいな歌声」と言われてきた夏川りみが、現実の世界でも母親になって歌う子守歌が、特に心にしみた。おなじみの「童神」では、予想もしなかったサプライズが! 間奏に入ったところでいったんステージ袖にさがった彼女が、なんと愛息の音来くんを抱っこして再登場してきたのだ。びっくりしたのか大泣きをする音来くん。でも、お母さんが再び歌い始めると泣きやんだ。最後には、まるで歌に合いの手を入れるような声をたてるのには、誰もが微笑ましい思いに。
「この曲は、自分の子供を抱いて歌えたらどんなに幸せかとずっと思っていて。それで、せっかくだから今日は連れてきてしまいました」
そんな彼女の言葉がとても印象的だった。ひとつひとつの歌詞にじっと耳を傾け、心の凝りがゆっくりほぐされていくような贅沢でおだやかな時間。けれど、最後はやっぱり恒例のカチャーシーで盛り上がったり。泣かせる歌のあとで、MCで大笑いさせられたり。新しい夏川りみとの出会いだけでなく、今までと全然変わらないお茶目なりみにもうれしくなった。終演後、ツアーの手ごたえを訊ねると彼女は「幸せをかみしめながら、歌ってます」と言って笑った。ひと回り大きくなった歌声の原動力は、そこにあるのだろう。
(能地祐子)
【配信リリース情報】
●2011年1月12日・・・着うた(R)・着うたフル(R)・RBT
『愛しい子(カナシイグヮ)〜シングルVer.〜』
NHKラジオ深夜便「深夜便のうた」、2/9シングルc/w
【CDリリース情報】
●2011年2月9日発売 ニューシングル
『ゆりかごのうた』VICL-36627 1,260(税込)
<収録曲>
ゆりかごのうた/心の瞳/しい〜シングルVer.〜
●2011年3月9日発売 ニュー・アルバム
『ぬちぐすい みみぐすい』 VICL-63708 3,150(税込)
(タイトル間 半角スペース有り)
<収録曲>
あがろーざ節/おぼろ月夜/赤とんぼ/この道/ゆりかごのうた/椰子の実/しい/ヨーアンシ/ニライ・カナイの子守唄/景色
ほか全12曲収録・曲順未定
「赤とんぼ」「この道」「おぼろ月夜」「ゆりかごのうた」などの唱歌や子守唄、そして古謝美佐子、下地勇、新良幸人、大島保克ら、お馴染みの沖縄アーティストの書き下ろし作品などを収録。「生まれ来る子供たちに贈る」というコンセプトでまとめられたニュー・アルバム。全12曲収録。
※ぬちぐすい→命の薬。沖縄では、美味しいものとかを食べる時に、「ヌチグスイやさ!」と使ったりする。母親の愛情とか、人の優しさとかを表現する時に使ったりもする。
※みみぐすい→耳薬。美しい唄を聴くことは、耳の薬である。
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