10年間の軌跡を辿るアルバム・リリースを目前に、ご本人を迎えてのロング・インタビュー。歌手・平原綾香の原点である「Jupiter」への熱い想い、転機となったと言う「ノクターン」の思い出、独特の作詞方法から、これからの目標まで、たっぷりお話を伺いました。
すっごくうれしいですね。あっという間という感じもするんですけど、やっぱり10年って長いと思うんですよね。10年やってこれて、こうやって、記念のシングル・コレクションも出せて、ほんとにうれしく思います。
ありましたね。もう、音楽しかなかったので、絶対に音楽で夢を叶えていくぞという気持ちは持っていました。
その年の4月に大学に進学して、ちょうど「Jupiter」に出会った頃です。音楽理論という授業の中で、色々な曲を聴いた中の1曲だったんですけど。
聴いてはいたと思うんですけど、ホルストの「木星」として、メロディーを意識して聴く機会はあまりなくて。本当に、この授業で“出会った”という感じなんです。
授業中にも関わらず、涙が止まらなくなっちゃって。何とも言えない懐かしさのようなものを感じて、ずっと会いたかった人にやっと会えたと言うか。ビビビっときたんです。運命の人!みたいに感じて。
まさにデビュー曲を決めるタイミングでした。実は、その時点では、既にデビュー曲の候補というのは決まっていたんですね。だけど「Jupiter」と出会ってしまって。この曲を絶対にデビュー・シングルにしたいって思ったんです。
その前年に、9.11(アメリカ同時多発テロ)があって、世界がとっても不安な時期だったんですよね。そんな時に、私は歌い手として何ができるだろうって考えたんです。世界が悲しみに包まれている時、音楽で何ができるんだろうって。私自身、音楽に助けられた事がたくさんあって、音楽に心を癒して貰って、たくさんの勇気を貰って生きてきたから、自分がデビューする事になった時、今度は発信する側の立場として、私はどんな事を伝えていくべきか。辛い時には、どんな音楽が求められるのだろうか、人の心を癒す音楽って何だろう。そういう事を深く考えるようになっていました。
そうなんです。ホルストの「木星」は、心を癒してくれる、慈悲のある、心を救うメロディーだった。そのメロディーに乗せて、自分の想いを歌いたいと強く思ったんです。
事件の1〜2年前に、ボストンにいる姉を訪ねてアメリカに行った事があって、その時、ニューヨークにも寄って、貿易センタービルもこの目で観てるんですね。それが、跡形もなくなってしまう。自分のこの目で確かに見たものが今、テレビの中で崩れていくというのはすごい衝撃で…。世界平和を唱えるとか、そんな大それた事を思ったわけではなく、世界が平和である事も、家族みんなが平和である事も、自分の心が平和である事も、全て切り離せないし、全て繋がっているんじゃないかなと思ったんです。どれも同じように大切なものだと思うし、自分の心が平和じゃないと世界も平和にならないような気がして。世界が平和であるようにというのはとても大きなテーマだけれども、それを、とても身近にある、私たちの心のそばにあるメッセージにしたいなと思ったんです。そんな時に、アシュリー・ヘギちゃんのドキュメンタリー番組を観て、その想いが一層強くなりました。
プロジェリア症候群というのは、体の老化が極端に早く進む難病なんですが、そんな難病を抱えながらも、彼女が“生まれ変わってもまた私に生まれたい”と言うのを聞いて、その時も、いっぱい涙が出て、アシュリーちゃんに“ありのままでいいんだよ”って教えられた気がして。それから、彼女とお母さんの深い絆にも感動して…。
そうですよね。お母さんも最初は娘とどう接していいかわからなくて、お酒に走ったり、自暴自棄になったりした時期もあったそうなんですけど、やっぱり、この子の助けになりたい、この子のために今自分に何ができるんだろうって考えて向き合うようになった、と。それで、そういうお母さんの大きな愛というものも描きたいなと思って。
木星というのは、地球にとって、お母さんのような存在でもあるんですよね。木星の強い引力が隕石を引き寄せているので、そのお陰で地球に隕石が落ちないんだと聞いて。なんだか、木星が体を張って、地球を守ってくれているような気がして。母と子の愛、絆というテーマも、「Jupiter」にピッタリなんじゃないかと思ったんです。
そうなんですよ。最初は、頑張って書いていたんです。でも、なかなかうまく表現できなくて…。私が書いた詞を吉元さんにお渡しして、新たに歌詞を書いていただきました。私が書いたフレーズも、いくつかはそのまま残っていますけど、私では到底書けなかった素晴らしい歌詞を書いていただいたと思います。自分が書いた歌詞をプロの作詞家さんにお渡しするのって失礼なんじゃないかと思ったんですけど、でも、どうしても伝えたい想いがあったから、思い切ってお渡しして見ていただいたんですけど。吉元さんとは、ロイヤルホストで語り合いました(笑)。
本当に私の想いを深くくみ取ってまとめてくださって感激しました。私が伝えたかった事はこういう事だったんだと、自分自身で再認識する部分もあったし、こういう心もあるんだなと教えていただいたフレーズもあります。あの時、吉元さんに歌詞を書いていただいて、本当に良かったと思います。
そうですね。「Jupiter」は、私にとって大切なデビュー曲ですし、「Jupiter」があったからこそ、色んな人との出会え、色んな曲、色んな場所とも出会えたわけで、「Jupiter」には本当に心から感謝しています。
もちろんそれもありますが、でも、「Jupiter」だけではなく、“Dear ホルストさん”という想いもあるし、これまでのアルバムの1曲1曲も愛しく思うし、“Dear お客様”という気持ちもあるし。“Jupiter”は、私が感謝し、大切に思っているもの全ての象徴でもあります。
ほんとですね。Disc-1は、初めてづくしですね。歌手・平原綾香としては、いま10才という事なので、前半の5年間…5才までは、色んな初体験というのがあって、すごく刺激的な日々だったように思います。
Disc-1は、まだ学校に通っていた頃の楽曲が中心ですが、学校と音楽活動の両立で、すごく忙しかったんですけど、でも今思うと、どれがほんとの忙しさなのか、何が普通なのか、あんまりわかっていなかった気がします。卒業してからは、こんなに時間があるんだって、すごくうれしくなったんですけど、逆にストレスも感じるようにもなって。それまでは、学校に行って、友達と会いお喋りしていたから、ストレスを発散できていたんだなと気づいたり。
考えてみたら、保育園から始まって、小学校から大学まで、ずっと“どこかに通う”という生活をしてきたわけで、毎日まず、学校に通って、帰ってきてから習い事をして…という十数年間続いていた生活の流れが一気になくなって、あぁ大人になったんだなって。大学卒業というのは、やはり大人になる第一歩だったんだと思います。そういう経験も含めて、この10年間、自分探しの旅みたいなものを続けてきたような気もします。
歌が変わったというのは、本当にその通りだと思います。自分の心自体もいろんな変化をした時期でもありますし。
脚本をご担当された倉本聡さんに起用していただいて、女優というものに初めて挑戦しました。お話をいただいた時は、演じる事と歌う事って、ちょっと似てるんじゃないかと思っていたんですけど、実際にチャレンジしたら全く違うものでした。
それが全く違ったんですよね。歌の時は、平原綾香を軸として、歌の中で色んな役を演じる事ができていたように思っていたんですけど、“風のガーデン”で氷室茜という役を演じた時には、軸が氷室茜になってしまったんですよね。共演の俳優さん達は、撮影が終わったら、パっとご本人に戻るんですけど、私はずっと氷室茜のまま。氷室茜を演じるんじゃなくて、私自身が氷室茜になってしまって、本当の自分がわからなくなっちゃって。不安になったり、悩んだりもしました。
すごく大きかったですね。私が演じた氷室茜という女性は、歌手なんですけど、愛する人が死んでしまう。でも、その訃報を知りながら、ステージに立つんですね。そのシーンでは、ステージで「カンパニュラの恋」を歌うんですけど、茜の悲しみが手にとるように伝わってきて、感情が自然と溢れ出してきたんです。
そうだったかもしれないですね。感情を表に出して歌う、より情熱的に歌う、そういう歌い方に初めて出会ったのが「ノクターン/カンパニュラの恋」でした。
「ノクターン」は、誰もが知るショパンの有名なメロディーですし、ちょっとすごくシャンソンのような感じもあって、そういう曲を歌うとなった時、今の自分では太刀打ちできないなという気持ちもあったんです。それで、気持ちを更に前に出す歌い方というのを、本当に何回も何回も練習したんですけど。氷室茜として歌った時には、茜の感情と共に一緒に歌を歌うような感覚になって、ドラマと役と歌と全てがその時に合致して、また新たな表現を発見するキッカケになりました。
2009年から続いた『my Classics!』シリーズが、大きく影響していると思います。この10年間でいちばん歌詞を書いたのが『my Classics!』の時ですね。
自分の感情を書く、自分の気持ちを書くという点は変わらないんですけど、例えば、「Greensleeves」だったら、元々は叶わぬ恋を歌った曲だと言われていますが、その主人公の想いを書くというよりは、その主人公に共感しながら自分の想いを書いています。
『my Classics!』は、クラシックの名曲に、私自身が書いた歌詞を乗せて歌うというシリーズだったのですが、歌詞を書く時は、まず、作品に対する作曲家の想いとか、曲の時代背景とか、原曲自体が持っている物語とか、そういったものを紐解いて、そこからスタートしました。一見、私自身の人生とは全くかけ離れたものに思える曲でも、必ず何か共感できる部分って見つかるんですよね。その共感点を引っ張り出して歌詞にしていきます。
そうなんです。メロディーの中には必ず答えがあるんですよね。必ず生きるヒントが隠されているんです。だから、一人で作っているという感覚は全くなくて、それぞれの作曲家が、テーマを提示してくれて、いつも隣で見守ってくれている。導いてくれる。そんな安心感がありました。いつも一人ではなくて、二人で作っている、そういう感覚でしたね。
大きいですね。歌詞を書きながら、自分の人生以上の経験をしていると言うか。25〜26才の頃でしたけど、実際の生活では経験していないもの、経験できないものを曲として受け取って、そこに共感点を見出して、色んな人生を生きながら、自分の感情を書いていった。この経験は、歌詞を書く上ですごく大きかったと思います。
うーん、結婚して・・・ないかも(笑)。今は、恋と音楽どっちとる?って聞かれたら、迷いなく音楽なので…それがよくないのかもしれないですけど(笑)。そういう事もひっくるめて、色んな心を歌っていきたいなと思います。更に10年の間には、色んな実り、色んな気付があると思ので、10年後はもっともっといい歌い手に、いい音楽家になっていけるようにというのが今の夢です。
世界中を旅して歌うというのが夢なんですけど、そうなると、日本が故郷という事になりますよね。だから、もっともっと故郷を大切にしなきゃいけないと思うし、まずは、この日本で、日本の人たちにしっかりと歌を届けられるようになること。それが私の第一歩だと思っています。
デビュー当時から、自分の故郷に対する想いは変わっていないですけど、もっともっと世界に足を踏み入れたら、日本の良い所というのがたくさん見えてくると思うんですよね。世界で活躍されている方に聞くと、みなさん、“日本のここがいいんだよ”と教えてくださるので、私もそんな風に語れるようになりたいと思うし、日本語の美しさというのも日々感じていて、日本語をちゃんと歌える歌手になりたいと言うのも目標の1つです。日本語を知る事で、もっと日本の良さがわかってくるという事もあると思うので、大切に日本語を歌っていきたいです。
6月8日から、全国ツアー“AYAKA HIRAHARA 10th Anniversary CONCERT TOUR 2013 〜Dear Jupiter〜”がスタートします。この10周年ツアーでは、皆さんに、“10年間支えてくださってありがとうございます”という気持ちを伝えたいです。どんな事があっても、ステージに立って、お客様の拍手を聞くと、頑張ろうっていう気持ちになれるんですね。お客さんがいてくれたから、今の私がいる。その感謝の気持ちを込めてアルバムもお届けしたいですし、ライヴでは、皆さんに喜んでいただける事をたくさん準備しています。楽しみにしていてくださいね。
01.Jupiter
02.明日
03.君といる時間の中で
04.虹の予感
05.BLESSING 祝福
06.Hello Again, JoJo
07.Eternally
08.晩夏(ひとりの季節)
09.いのちの名前
10.誓い
11.Voyagers
12.心
13.CHRISTMAS LIST
14.今、風の中で
15.星つむぎの歌
16.孤独の向こう
17.さよなら 私の夏
●Disc-2
01.ノクターン
02.カンパニュラの恋
03.朱音 あかね
04.新世界
05.ミオ・アモーレ
06.Ave Maria!~シューベルト~
07.ケロパック
08.威風堂々
09.JOYFUL, JOYFUL
10.Greensleeves
11.別れの曲
12.おひさま~大切なあなたへ
13.My Road
14.NOT A LOVE SONG
15.スマイル スマイル
アルバム
発売日:2013.05.08
ドリーミュージック・
●初回盤(CD+DVD)
MUCD-8044 ¥4,900(税込)
●通常盤(CDのみ)
MUCD-1283 ¥3,900(税込)
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