名嘉 俊(以下、名嘉):HYはこれまで、1年半〜2年に1枚というペースでリリースしてきたんですけど、もっとファンのみなさんと繋がりたい、もっともっとスピードを上げて届けたいという想いがあって、今回、初めて1年に2枚のアルバムを出すというチャレンジをしました。完成してうれしいという気持ちはもちろんなのですが、乗り越え切れたなという想いがすごく強いですね。
新里英之(以下、新里):アルバム制作前に、5人で夢を再確認したんですよね。それがすごく大きかったなと思って。もう一度、自分たちの目標というものを掲げて、また、より今まで以上に責任をもって物事を決断していこう。そうすることによって、10年後、20年後も、自分達が思い描いた通りにやっていけるようになるんじゃないかって。そこから固めていったアルバムなので、自分達の決断とか、こうしたいという意思が込められたアルバムになったと思います。
許田信介(以下、許田):この1年は、すごくチャンレンジが多かったなと思います。ツアーに関しても、レコーディングに関しても、挑戦だったし。時間がない中で、1曲1曲への向きあい方がすごく濃厚だったなと思います。
宮里悠平(以下、宮里):今回は、ドラマ主題歌や番組テーマソングから作っていったんですけど、テーマがあって楽曲を作るというのは、それまであまり経験したことがなくて、プレッシャーもありましたけど、そういう挑戦を通して気づいた事もたくさんあって、制作期間はすごく短かったんですけど、とても充実した時間でした。頑張って乗り越えた…すごく達成感を感じています。
名嘉:20代最後の年となって、選択しなくちゃいけない場面がものすごく多くなった気がしたんですよね。これから30代へ向かうという時に、周囲の友達も、結婚したり子供を持ったり、会社勤めの中でも責任ある立場に昇格したり、あるいは、会社を辞めて新たなチャレンジをする人がいたり。そんな中で、自分達はHYとして、これから何をしていくべきなのかを考えて取り組みました。
新里:ほんとに“乗り越えた感”はありますね。
名嘉:今までだったら、1年にアルバムを2作出せるなんて考えてもいなかったし。やっぱり、夢を語り合うというのは大事だなと思いました。僕らは、高校時代に結成したんですけど、その時はまだ、日々日常の中でみんなが夢を語っていたんですよね。“いつかHEY!HEY!HEY!に出たいね”とか“ミュージック・ステーションに出たいね”とか。そういう夢がどんどん叶っていって、10年経って気がついてみたら、あんまり夢を語らなくなっていた。でも、もう1回、HYとしての20年目を話し合ったのが、ターニングポイントになったと思います。
名嘉:後者ですね。まず、アルバムを作ろうというのが先です。HYは、全員が作詞作曲をするので、リリース時期を決めたら、逆算して、いつ頃までに何曲くらい出来たらいいねとか、最初に全員でミーティングします。
名嘉:そうですね。まず聴いて、選曲して。結果、お蔵入りする曲もあるし。
名嘉:アルバムを通してのテーマを決めるということはないですね。日々感じる感情を曲にする。ずっと、そういうスタイルです。
名嘉:一番最初に取り組んだのは「タイムカプセル」です。NHK沖縄の特別番組“沖縄本土復帰40年企画”のテーマソングのお話があって、作っていった曲なんですけど。
新里:寄せられたメッセージを読んで、そこから作っていったんですけど。本当にパワーになりましたね。自分達だけでは作れなかったと思います。
新里:まず、楽曲の方向性を考えた時に、沖縄のちょっと違うかなって。「時をこえ」(2010年)の時は、僕らのおじぃー(祖父)、おばぁー(祖母)の戦争体験を基に、その苦労や悲しみを書いたけれど、今回のテーマは未来へのタイムカプセルということで、もっと明るく未来について考えていきたいねという事をミーティングで話し合ったんです。それで、全国から寄せられたメッセージを読んで、まず、5人それぞれがひとりで詞を書いてくることにしたんです。こういう作り方も初めてでしたね。
許田:僕にとっては、これも大きな挑戦でした。これまで、共作で詞を書くことはあっても、ひとりで全部書くという事はなかったから。それで、みんなで詞を持ち寄った時に“身近”というテーマが見えてきて、一番身近な視点で“今”を書いているのが、ゆーへい(宮里)の詞だったので、それを基に、みんなの詞の良い所を織り交ぜながら作っていったんです。
宮里:今を表現するというのはすごく難しくて、みんなで話しながら進めていったんですけど。友達だったり、家族だったり、そういう身近な人を想いながら書いていきました。
新里:これまでのHYの曲は、例えば“夢を掴みにいこう”という歌詞があったとしたら、その夢というのは漠然としたすごく大きなものだった。夢を掴みに行くのはわかるんだけど、そのために何をするのか、その過程がないと言うか。大きすぎて共感できない、わかるんだけど、掴みきれないと言うか。
新里:そうですね。“がんばろう”だけじゃなくて、転んだり、悩んだりという事にも目を向けて、身近なものに目を向けて歌詞を書いていこう、と。でも、それは、すごく難しくて、いいものはできているんだけど、何か物足りない。熱量が足りない…となって。それで、みんな持ち帰って、また持ち寄って…そういう作業を何回も繰り返しました。
許田:ほんとに何度も書き直して、あの時は、1日2日寝られないのが当たり前という感じで。
名嘉:小学校の卒業文集に書いた“将来の夢”と現実って、ほとんどの人が一致してないじゃないですか。自分達も、小学生の頃は全然違うことを思っていたし。だけど、夢をあきらめつつも、また夢を持つ。その大切さであったり、自分達が今、生きていけるのは周りの人がいるからだよなっていう、本当にそういう当たり前の日常の事が書けたのでよかったと思います。10年後に「タイムカプセル」を聴いた時に、あの時はこんなだったんだと振り返る事ができるような、“今の想い”を曲に書いておく事って大事だなって。そこに辿りつきました。
名嘉:そうなんですよね。だから、この「タイムカプセル」という曲を、少しでも早く全国の皆さんにお届けしたかったんです。
新里:そうです。“純と愛”の主題歌を作るにあたっては、10曲くらい曲ができましたね。最終的に「いちばん近くに」が主題歌に、「二人で行こう」が挿入歌となったんですけど。
新里:朝ドラは、幅広い年齢層の日本中の方が見るから、聴きやすい曲、わかりやすい歌詞であるべきだって、ちょっと難しく考え過ぎてしまって。じゃあ聴きやすい曲って何だろう、伝わりやすい歌詞って何だろうって、どんどん自分達を追い込んでしまって。でも、5月にパレードツアーのファイナルを沖縄でやった時に、NHKのプロデューサーさんも観に来てくれて、ドラマのカラーと、HYの考え方や素直さがすごくマッチしてるから、HYが作ってくる曲ならば、何でもいいよって言ってくれたのがすごくうれしくて、プレッシャーがなくなったんですよね。それで、そこからすごく幅が広がって。
名嘉:台本を読ませてもらって、まずは、5人それぞれがひとりずつ曲を書いてきたんですけど、みんな、台本に書かれたストーリーのまんまの歌詞で(笑)。
新里:みんなで話し合ううちに、泉(仲宗根)と男性メンバーひとりずつでコラボして作っていこうというアイデアが出て、4組それぞれで楽曲を作っていきました。そこから“純と愛”にマッチしていて、よりHYの個性が見える曲という中で選んでいきました。
名嘉:家族は血が繋がっているけど、恋人や夫婦は他人同士。その他人同士が一緒になって一緒の道を歩んでいく、その原動力は何だろうとか、そういう事を考えていくうちに、“信じる力”という言葉に辿りついたんです。
名嘉:ドラマに寄り添いすぎることもなく、いい距離感だと思いますね。
許田:最初は、テンポもすごく早くて、4つ打ちで、全く違う曲調だったんですよ。
新里:やっぱり、HYらしさというのは、イーズ節があってこそなので、こういう頭からイーズ節全開の曲調になったんです。
宮里:あるようでないような曲調なんですよね。だから、アレンジ面でも、間の取り方がすごく難しくて。この曲も、新しいチャレンジですね。
名嘉:僕と泉はいとこ同士なので、小さい頃から全部知ってるんだけど、泉は常に自分の今をリアルに書き続けてきて、恋愛の痛い部分とか、そういう歌が多かったのに、前回のアルバム『PARADE』で、初めて「私のHERO」というハッピーソングを書いて、そして、この「二人でいこう」は、お腹にもうひとりの命がある中で仕上げた曲なので、泉の今の心境は、こんななんだなって。これからが期待できる1曲になったと思います。
新里:これもまた達成感でしたね。曲を作り上げるまでにすごく苦労したので、よく頑張って乗り越えられたな、成長できたなっていうのが最初に思った事でした。
名嘉:主人公の純は、ものすごくポジティブで素直で、思った事はすぐに口にしてしまう。あのパワーから、自分達も励まされました。
新里:これは、前作『PARADE』を作っている時に出来た曲なんです。君がいたから自分に自信が持てて、前に進めた。君が今の自分を全て作ってくれた。支えてもらった。それに対する、ありがとうという気持ちを込めた歌です。
新里:恋愛に限らず、自分の周りにいる人みんなですよね。周りに人がいるから、自分を知る事ができるんだし、自分という人間が出来ていくんだと思うんです。
新里:なんて言ったらいいのかな、ジャジーと言ったらいいのか…HYの中ではあまり使わないコードを探しながら作っていったんですよね。あ、これカッコイイなっていうコードを探して、そこから膨らませていって。今までと違う曲にしたいという想いで作っていきました。HYの曲の中では、すごくクセがある曲調だと思うんですよ。細かいアレンジをいっぱい入れてるから、そこも是非楽しみに聴いてほしいですね。
新里:別れて初めて気づく事ってたくさんありますよね。あの時、自分が言ったひとことが、すごく相手を傷つけていたんじゃないかとか、あの時、どうしてもっと優しくできなかったんだろうとか。でも、バイバイした後に、そういう事を考えるというのは、その人の事を本当に好きだから、大切に思っているから、振り返る気持ちになるんだと思うんです。こういう気持ちを持つ事の大切さと、そして、また次に同じ場面があったとしたら、自分が一度失敗した過ちに気づいて行動したいし、行動していこうという想いも込めました。
新里:すごくアップテンポな曲調なのに、泉の張り上げて歌うヴォーカルが乗ると、すごく雰囲気が出て、この曲も、これまでのHYには、ありそうでなかった曲だと思います。
名嘉:はじめは、僕ひとりで書いてたんですけど、2〜3週間、歌詞で悩んじゃって。それで、“一緒に書こう”って泉を誘ったら、3時間くらいで出来ちゃって(笑)。近すぎる二人の距離感、近すぎて見えないものを表現したかったんです。よくある日常的な事ですよね。今日はすっごくうれしい事があって電話したのに、何かのキッカケで喧嘩になっちゃって、結局言えなかったとか。そういう日常的な事を書きました。サウンド面では、敢えてちょっと古めの感じを狙った曲です。
名嘉:近いから見えるものもあるし、近すぎて見えなくなってしまうものもある。それを表現したくて考えたタイトルです。
名嘉:周りの友達とかに聴いてもらったら、みんな“いいね”って言ってくれるんですよね。やっぱり、みんな、こういう恋愛してるんだなって。「いちばん近くに」とか、すごく苦労してみんなで頑張って作った曲はもちろんなんだけど、こういうサブ曲も気に入って貰えると思うと、ますます早くアルバムを届けたいという気持ちになりました。
名嘉:これはもう、自由に遊ばせてもらいました。制作中、最後の方に出来た曲で、こういう一癖あるのもいいかなと思って。音に関しては、とにかく楽しんで貰いたい、笑わせたいというのが第一で。音楽って、こんなに遊べて楽しいものなんだよっていうのを、今からバンドする若い子たちにも伝えたかった。例えば、こういうのコピーしてみたらどう?って。
名嘉:“なんで、こんな音使うの?”っていうのがテーマでした。それがメンバーにも伝わったのか、普段だったら、歪み系ではそのギター使わないよねっていうのを敢えて持って来たり。今までのHYとは違う、“変化”というのをメンバーと共有できた。自分達が意識すれば、自分達から変わっていけるんだという事を実感した第1作目とも言えると思います。
宮里:自分の中に“流れ星”というテーマがあって書いた曲なんですけど、恋愛を通して自分自身が感じた事と沖縄の風景を重ねて…やっぱり、伝えることが一番大切なんだけど、でも伝え切れない。ちょっと弱っちい男の歌ですね(笑)。
宮里:泉と一緒に作り始めて、泉がすごく面白いアレンジを出してくるので、それで、ボサノヴァ調と言うか、そういう曲調に持っていったんですけど。
名嘉:そうなんですよ。すっごくイイとこ突いてくるんですよね。しかも、歌詞は、自分が想っている人には好きな人がいるという内容で。自分が好きな人の“好きな人”は誰なんだろうって。こういう事って、誰もが経験してますよね。だから、もし、今、好きな人と一緒にいられる人は、お互いに同じ気持でいられるっていうのは奇跡なんだぜっていうのを感じてほしいですね。
名嘉:それはうれしい!!すごいですね。
名嘉:HYの曲に限らず、アクセスが多い歌詞というのは、やっぱりリアルを書いているんでしょうね。1億2千万人の日本人が、日々過ごしている中で感じたものを素直に落とせてる歌詞なんだろうと思います。希望とリアルの間を書いているんだろうなって。
名嘉:生暖かくて、ちょっと気持ちいいぐらいの感じ。イメージはお風呂です。そういう曲を書けたらいいなと思いますね。
宮里:やっぱり、泉はスゴイなって尊敬します。とにかく、うれしいですね。
新里:みんな、恋したいけど、それが叶わないもどかしさっていうのがあって、そこが共感に繋がっているんじゃないかな。あ〜自分と同じなんだっていう感覚が助けになるって言うか。会いたいけど、会えない。会えないけど、会いたい…その気持ちの人がすごく多いんでしょうね。
許田:でも、新たな挑戦心も湧いてきますね。昔の曲だけじゃなくて、これから作る曲もまた、10年20年愛される曲になっていってほしいなって。だから、すごく励みにもなります。
名嘉:それって、すごいですよね。音楽って、普通はサウンドから耳に入って、歌詞は後からじゃないですか。歌詞を先に読んで、あとから音楽を聴くっていうのは、また違った捉え方になるんじゃないかなって。
名嘉:それは、すごくうれしい傾向ですよね。ドラマでのオンエアは、泉の声しか聴こえないので、是非、2コーラス目からの英之の声を聴いてください。
新里:HYにしか書けない歌詞というのがあると思うんですよね。HYは男女混合のバンドで、全員が曲を書くので、男性目線、女性目線、男女の掛け合いと、1つのバンドで色んな歌詞が書ける。それから、もう一つ自分達の核となっている部分は、沖縄で生まれたということだと思っています。自分達では、そんなに意識して沖縄のことを書いているつもりはないんだけど、自然とそういうニュアンスが表れていると思います。
名嘉:みんな、言葉の力を欲しがっているんだと思うんですよね。思う存分、言葉の力を信じて、色々な歌詞を検索して見てほしいなと思います。
名嘉:自分達も20代最後になって、周囲の友人達を見ていても、決断する時期にきているんだなと思うんです。色んな道があると思うんですよ。その中で多分、みんな、迷いもあると思います。そういう時に、このアルバムの曲達が背中を押してくれると思います。立ち止まってもいいと思うんですよね。立ち止まった時、そしてまた進む時、いつもこの歌があるっていうのを感じてほしいですね。
新里:『Route29』は、すごく身近なもの、今生きている中で大切なものを歌っているアルバムだと思います。近いからこそ、忘れがちなことってすごく多いんだけど、その忘れがちな大切なものに気づいてもらうキッカケになったらいいなと思います。
許田:これから何かに挑戦しようとしている人だったり、夢を追いかけている人だったり、そして、悩んでいる人がいたら是非聴いてほしいアルバムです。絶対に背中を押してくれる曲があると思うので、また長い間愛されるアルバムになってほしいですね。
宮里:みんなが生活していく中で、1曲1曲が寄り添っていってくれたら、うれしいなと思います。1曲1曲の方向は違うけれど、恋愛だったり、未来だったり、夢だったり、色んなものが詰まっているので、曲と一緒にみんなが進んでくれたらいいなと思います。
名嘉:泉は産休中でしたが、泉が大丈夫だよと言った瞬間、すぐにツアーをやりたいと思います。まだ、具体的には何も決まっていないですけど、メンバー全員、やりたいねという気持ちでいっぱいです。全国で待っていてくれる皆さんの街まで、また行きたいと思います。みなさん、楽しみにしていてくださいね。