水曜日のカンパネラとオオルタイチが共作したEP『YAKUSHIMA TREASURE』をきっかけに始動したニュー・プロジェクト、YAKUSHIMA TREASUREが同名義としては初のワンマンライヴを恵比寿リキッドルームで行なった。先のEPでは屋久島で録音したさまざまな生物の鳴き声やサウンドスケープ、島民たちの声を散りばめながら、独自の音楽世界を描き出していたが、その世界がどのように再現されるのか、開演前から会場いっぱいに期待感が広がっていた。
まず驚かされたのがステージの配置。フロアの真ん中に小さなステージがセッティングされ、その上には屋久島をイメージした草木が配置されている。観客はそのミニチュア版屋久島をぐるりと取り囲む形で観覧する配置となっている。普段のリキッドルームとまったく違う光景に、観客たちが目を丸くしていたのが印象的だった。
開演予定時刻をわずかに過ぎたころ、和紙で作られた衣装に身を包んだコムアイとオオルタイチが登場。小鳥たちとカエルたちの鳴き声に続き、アイヌのウポポ(伝承歌)である「オロロピンネ」でこの日のステージは幕を開けた。それに合わせて客電が落ち、会場は漆黒の闇に包まれる。
先のEPにも収められていた「地下の祭儀」からいよいよディープな世界に突入。さまざまな音・声がエレクトロニクスやノイズ、ビートと絡み合いながら、「島巡り」から「殯舟」「東」と、EP収録曲がシームレスに披露されていく。まるで音による屋久島探訪といった雰囲気だ。コムアイの歌声も水曜日のカンパネラのとき以上にシャーマニック。土着文化に対する彼女の愛着が普段以上に前面に出ており、架空の部族の儀式を見ているような感覚に陥る。
民謡のようなフレーズが楽しい「屋久の日月節」が終わると、花道家の上野雄次が大きなビニール袋を担いで登場。袋の中身をステージ中央に撒き散らしながら、次第に巨大な山を作り上げていく。コムアイとオオルタイチはその山に埋もれるようにパフォーマンスを繰り広げていくのだが、その光景はひとつの島が誕生するプロセスを目の当たりしてしまったような、摩訶不思議なものだった。
アカペラで歌われる「愛しいものたちへ」「宮之浦の子守唄」に続いては、水曜日のカンパネラのレパートリーである「ユタ」も披露。この日最大の盛り上がりを見せると、「パンニャ」と静かなインプロヴィゼーションによって約90分のライブは幕を下ろした。
この日の音響はサウンドエンジニアとしてさまざまなアーティストから信頼を得ている葛西敏彦が担当。久保二朗(acostic field)がサラウンドの音響システムを構築した。高田政義の照明も含め、聴覚と視覚を存分に刺激する素晴らしい音楽体験となった。
なお、YAKUSHIMA TREASUREはこの後さまざまなフェスティヴァルを回る予定だが、ライヴハウスでワンマンをやる予定は今のところない。そうした意味でも、極めて貴重な一夜であったことは間違いない。今後のYAKUSHIMA TREASUREの活動に大いに期待したい。
(文:大石始)
写真クレジット:Photo by Saki Yagi
■セットリスト
M1. オロロピンネ
M2. 地下の祭儀
M3. 島巡り
M4. 殯舟
M5. 東
M6. 屋久の日月節
M7. 愛しいものたちへ
M8. 宮之浦の子守唄
M9. ユタ
M10. パンニャ
【作品情報】
水曜日のカンパネラ & オオルタイチ 『YAKUSHIMA TREASURE』
ダウンロード・ストリーミングURL:https://wedcamp.lnk.to/yakushimatreasurePu
M1. 地下の祭儀
M2. 島巡り
M3. 殯舟
M4. 東
M5. 海に消えたあなた
M6. 屋久の日月節
【YouTube Originals「Re:SET」 作品概要】
日常から浮遊した独特な世界観の楽曲と、常に新たな試みを取り入れたパフォーマンスで、日本の音楽シーンをリードするユニット・水曜日のカンパネラ。2017年に武道館での単独ライブを成功させ、日本発、唯一無二のアーティストの座を確立した。しかし歌唱・パフォーマーを務めるコムアイは、自分らしい自由な表現ができていないことに危機感を抱いていた。
それから自分が納得する表現を追い求め試行錯誤を繰り返していたコムアイは、新曲とミュージックビデオの制作を行うため、世界遺産の島、屋久島を旅することになった。太古の自然が残る屋久島の自然と人々との出会いは、コムアイにどんなインスピレーションをもたらすのか?
新曲「屋久の日月節」が完成するまでを追う。
【Re:SET】
Official Trailer
Episode 1:コムアイの原点 | Re:SET
【YAKUSHIMA TREASURE(水曜日のカンパネラxオオルタイチ)・プロフィール】
2019年4月にYouTube Originalsで発表された、水曜日のカンパネラと屋久島のコラボレーションを試みる作品 Re:SET。
この作品を通し一枚のEP「YAKUSHIMA TREASURE」が誕生した。
島のカエルの鼓動や木々をうつ雨、岸壁の風、波の音に耳を澄まし、村のおばあちゃんたちとうたい、あの手この手で採集された音をもとに様々な曲が制作された。
屋久島の自然を壊滅させてしまった縄文時代の鬼界カルデラ噴火を題材にした「屋久の日月節」をはじめ、水曜日のカンパネラとオオルタイチが屋久島と取っ組み合い、紆余曲折を経て生み出したタカラのような曲たちをライブセットで披露する。
【関連情報】
水曜日のカンパネラ Official Website:http://www.wed-camp.com/
水曜日のカンパネラ Official YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCt30iKDSksaJ0hbd363ETfA
水曜日のカンパネラ Official Twitter:https://twitter.com/wed_camp
水曜日のカンパネラ Official Weibo:https://www.weibo.com/6639055896/profile?topnav=1&wvr=6
コムアイ Official Instagram:https://www.instagram.com/kom_i_jp/
オオルタイチ Official Website:http://www.okimirecords.com/