4歳からエイベックス・アーティストアカデミーでレッスンを始め、10歳から数々のコンテストでグランプリに輝き、歌の神童として各方面から注目を集めてきた石橋陽彩。昨年はディズニー/ピクサー映画『リメンバー・ミー』の日本語吹替版声優として、歌唱場面もふんだんにあるミゲル役を見事に演じ、その豊かな才能を多くの人に知らしめた。そんなスーパー・キッズも今や思春期真っ只中の14歳。変声期という大事な時期を迎えたため、3月から一旦歌手活動はお休みするという。というわけで、その前に記念すべき石橋陽彩1st Live「Remember me 〜新たなる旅立ち〜」が開催されることとなった。将来伝説となるはずのこのライブ、当初発表された2月10日(日)のMt.RAINIER HALL PLEASURE PLEASUREは即完売となり、2公演が追加された。ここでは、1st Liveの初日となった2月10日の模様をお届けしよう。
サポート・バンドが登場し、スタンバイする中、スクリーンにはライブのリハーサル風景が映し出された。ミュージシャンと時に真顔で、時に笑顔でやりとりをする石橋陽彩の姿は、すでにこの道と心を決めたシンガーの佇まいだ。その映像が消えると同時に本人がステージに。襟にスパンコールをあしらったジャケット姿が、ちょっとフォーマルな雰囲気。始まったのは、やっぱりコレだねの「リメンバー・ミー(石橋陽彩ver.)」だった。もうまぁるい頬が可愛らしい子ではなく、精悍さも混じるれっきとした男子中学生。まさに声変わり進行中といったトーンではあるが、声に宿る優しさや包容力は、ボーイ・ソプラノの頃と一緒。まだ声のコントロールは難しいはずだが、果敢にファルセットにもチャレンジし、早速新たな歌の表情を届けてくれた。
「みなさん、こんにちは! 盛り上がっていきましょう」と手拍子を煽って続いたのは「I want you back」。かの三浦大知やLittle Glee Monsterを筆頭に、とにかく古今東西歌の上手いティーンたちは、みんなこのジャクソン・ファイブのナンバーを通過してきている。石橋のカバーは、リトル・マイケルではなく大人マイケルのほう。ゆったりめのグルーヴに乗る英語の発音が抜群で、やっぱり耳がいいんだなと聴き入った。このあたりの音域では、力強い深みが感じられた。
対照的に、バイオリン・ソロなども入るアコースティック・サウンドで奏でられた秦基博の「ひまわりの約束」では、引いて抜く声も織り交ぜ、情感豊かな世界を作っていく。ピアノだけで歌ったDREAMS COME TRUEの「LOVE LOVE LOVE」のカバーでは、地声とファルセットが入り混じったような、なんともいえない魅力的なミックス・ボイスを披露。変声期で自分の音域が定まらない中だからまだ試行錯誤中だろうが、こう表現したいという思いを持って声と向き合い、集中しているのがわかる。プロ意識が身についているのだろう。
とはいえ14歳。という素顔が見られたのが、顔なじみのdjmapi松本ともこと繰り広げたTALKコーナー。「ワンマンライブはうれしいんですけど、不安と緊張で頭真っ白になって、こうしたらいいかなと思ってたこと全部忘れちゃいました。だから自由にやってます(笑)」というアンビバレントな大胆発言には、会場がクスッとなった。次の瞬間キャーッ! という声も。スクリーンに石橋の生後まもない頃からの秘蔵写真が映し出されたのだ。初めてマイクを握ったという1歳の頃の写真も。母親がカラオケで「大阪LOVER」を歌うと、必ず同じ箇所で声を合わせていたという話や、Mステに初出演した日、楽屋に自分の名前が貼ってあってうれしかったことなど、写真にまつわるエピソード・トークも満載。事前に募集していた質問に答えるコーナーでは、「ジャイアンのモノマネ」も飛び出して笑いを誘った。14年の歴史をシェアし、柔らかい表情になった石橋に、みんなさらに親近感を感じたようだった。
後半は、サポート陣につられて湧いた観客の手拍子とともに『リメンバー・ミー』の中でも一番陽気な「ウン・ポコ・ロコ」から。石橋が「好きなシーンのトップ5に入る」という映像もリンクして、心踊る楽しさとなった。続いたのは、ファンからのリクエストが多かったという2曲。ドリカムの「やさしいキスをして」では、ハスキーに響くポイントがあってキュンとなる。それ以上にグッと引き込まれたのが、back numberの「クリスマスソング」のカバー。この曲のちょっとウェットなせつなさが、彼本来のメンタリティとシンクロし、すごく溶け合っているように思えたのだ。石橋陽彩というシンガーのコアを垣間見た気がして、本編ラストの「音楽はいつまでも」を聴きながら、その未来の姿にワクワクと思いを馳せた。
軽快なアレンジの「星に願いを」で始まったアンコールでは、まず持ち味の素直な声をたっぷりと。メンバー紹介では、それぞれの名前をコールしながら担当楽器を弾く真似をするという茶目っ気も見せ、客席に向かって「カモン!」とワイパーをおねだり。今日イチでハジけるぞ! というパワー全開のパファーマンスに、観客も思いきり手を振って応えた。大きな拍手を笑顔で受けて、次の曲で使うギターを抱えるため背を向けた石橋。その瞬間、会場にどよめきが起こる。なんと、『リメンバー・ミー』で共演し、ヘクターの声を演じた藤木直人から、ビデオ・メッセージが届いたのだ。このうれしすぎるサプライズに、石橋は「えっ、えっ、えっ?!」と驚くばかり。「僕にとって陽彩くんは家族。しばらくお休みしてしっかりコンディションを整えてください。大人の声を楽しみにしています」という藤木に、大きな声で「藤木さん、ヘクター、ありがとう!」と言いながら、しばし動揺が収まらず、「ちょっと落ち着こう」とステージを行ったり来たり。MCの続きにいこうとしながら、「ああ、落ち着いてないです」と告白する姿がなんとも初々しかった。
息切れするほどの興奮をなんとか抑えつつ、「みなさんと出会えたこと、一生忘れません」と感謝を伝えた石橋。「これからも僕の夢を一緒に見てくれますか? 応援してくれますか?」と渾身の力で叫んで、最後は再び「リメンバー・ミー」を、今度はスカ風の斬新な元気バージョンで届けてくれた。ちょこんとギターを抱える姿はミゲルそのもの。映画の中で、「ぼくには音楽が必要なんだ!」とミゲルが宣言する場面があったが、石橋陽彩もまた、たった今、ステージの上でそう思っているという気がした。歌い終えて「ありがとうございました!」と客席を見上げたそのホッとした顔、晴れ晴れとした表情に、なぜか胸が熱くなる。きっとこの景色は、この1st Liveでしか見られないものだろう。石橋陽彩にもこんな時代があったよね、と、いつかこの日を懐かしく思い出すことを、ずっと心待ちにしていたい。
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